松瀬研祐

リコリス・ピザの松瀬研祐のネタバレレビュー・内容・結末

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

『リコリス・ピザ』。冒頭の中学校のトイレシーンの爆竹から、この映画には様々な偶然があふれている。その偶然は、およそ映画的な展開をさせる物語とは無縁かのように、繰り返し続く。ニューヨークへでかけることも、ウォーターベッドビジネスを思いつくことも、警察に拘束されることも、酔っぱらった大人たちの悪ふざけに参加することも、選挙活動をするポスターを見つけることも、彼らの日常の通り道にたまたま存在し、彼らはそれの一つ一つにしっかり寄り道したりしながら、つかず離れずを繰り返す。そこそこ利己的な彼らが、自分のやりたいこ日々を過ごして、しばしば思いっきり走り出す姿の痛快さはなんなのだろう。警察から出たところの走り出しもそうだし、オイルショックに車が立ち往生している道路を「この世の終わりだ」と楽しそうに走る姿も。世の中は他愛も無い偶然に溢れている、だけど、その偶然から何かを選択するのは、彼らの意志だ。詳しくはしらないアメリカのどこかの町の、おそらく平凡な二人の登場人物の、少しばかりうねうねとした出来事の数々は、彼ら二人に限った物語のはずなのに、不思議と誰にでもありうる普遍的な物語でもある気がする。クライマックスの二人が、目の前の自分の場所から走り出して、もう1人を探し求めて夜の町を駆け出すシーンは、様々な出来事を経て、偶然ではなく、自らの意志で相手を探し出そうとしていて、その姿に胸が熱くなる。あと、なんだろう、個人的には、酔っぱらった大人たちが夜のゴルフ場へと歩く横移動ショットは、どこか不思議な祝祭感があって好きだった。
松瀬研祐

松瀬研祐