Ricola

リコリス・ピザのRicolaのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.0
爆竹とスプリンクラー。
これらが象徴するようにアラナとゲイリーの出会いは突発的で、関係が走り出すのもあっという間だった。だけど彼らは蛇行や寄り道を重ねていく。

この二人の、すれ違ったりくっついたりを繰り返す関係を我々はひたすら見守る。
お互いに自分らしさややりたいことを模索してさまざまな人との出会いや出来事が巻き起こるなかで、二人は素直になれずに曖昧な関係を保つ。
こういった恋愛模様が描かれる作品は古今東西いくらでもあるが、この作品のようにカオスさと繊細さが混在しているような作品はなかなかないのではないか。


売れない元子役俳優の少年ゲイリーと、彼より10歳年上で学校の生徒写真の撮影の手伝いをしているアラナ。
強烈に惹かれ合ったはずなのに、自分の思いを認められず、相手の気持ちを信じられずに、衝突しながらも同じ空間で関わり合いを持ち続ける。
そんな傍から見たら奇妙な関係と彼らの複雑な感情の交差にドキドキする。
しかし、彼らが関わっていく大人たちの強烈なキャラクターが、ピュアな恋愛映画というだけでは終わらせない。

刹那的なノリ、今ここにしかない感情や気持ちの高まりとぶつかり合いとは青春映画に不可欠なものであるだろう。
まさに長い人生において瞬間的な高ぶりが、この作品では捉え続けられている。
それは、走ることにおいて特に見られる。
走ることは彼らの青春そのものなのだ。
苦しくて、泣きたくて、自分を変えたくて、相手を思って、幸せいっぱいで…。
さまざまな思いを抱えて二人の若者は何度も走る。

そして、アラナ・ハイムの魅力は言うまでもない。アラナの表情の変化というより、もはや別人かと思うほどの「顔」の変わりように驚かされた。
怒りや嫉妬に満ちているときは、まるで『オズの魔法使い』の西の魔女の憎悪のイメージである。
その一方で、笑顔や幸せそうなときは、少女のようなあどけなさと爽やかさを感じられる。アラナの「顔」の振り幅こそ、この作品で監督が彼女を抜擢した理由なのではないかと思う。

70年代の、カラッとした気候のカリフォルニアを舞台のこの作品にぴったりで、また名曲と作中のシーンの意外なマッチ具合も楽しい。
カオスで力強さもあるのだけれども、脆くて柔い側面もある。
この楽しい青春映画を観終わった後も離れたくなくて、Spotifyですぐさまダウンロードしたサウンドトラックを聞きながら劇場を後にした。
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