よしまる

リコリス・ピザのよしまるのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.7
 実在の人物、映画スターやプロデューサーなどを登場させて時代を懐かしむとともに、その頃の価値観、あるいは社会規範であるとか倫理観だとか、そんなもろもろを若い男女の恋模様にぶっ込んでくることで「今ではないどこか」をたっぷりと味わえる映画。

 言ってしまえばそれが良かったとか悪かったとかいう話ではなく、そうだったよね、というノスタルジーこそが魅力だ。
 そしてどうしてもそのシチュエーションからしてタラちゃんのワンスアポンアタイムインハリウッドが頭をよぎってしまうわけだけれど、個人的には圧倒的に本作リコリスピザのが好き。

 まず役者の見た目が違う。華やかさなどまるでない、ごく普通の男の子と女の子が、ただ何となく理由も無しに惹かれ合う。ここにはレオ様もブラピもマーゴットもいない。せいぜいブラッドリークーパー(笑笑)。

 まああちらはハリウッドの煌びやかな世界を軸にしているから同一線ではない。
 んが、それにしても、笑えるほど普通な人たちが普通にクソ真面目に恋愛するのがビューティフルすぎて愛おしい。

 キミたち何をそんなに意地張ってんの?なんでお互いにこだわってんの?
 そんな「恋愛」という世にも奇妙な関係性においてただただ不思議なほどに好きでいる、そこに理由もへちまも要らないということがまったく直球で描写されている。

 つまり、こうだから好き、こうだから嫌い、アソコはよくてココはダメとか、恋愛なんてそんな杓子定規で測れるほど単純なものではないし、裏返せば好きか嫌いかに勝るものなんて初めからどこにもないのだ。

 この先ふたりがうまく行くのか、変わらず喧嘩を繰り返したり、お互い浮気なんかもしてしまったりも当然のように予想されるし、普通で考えたら「やめとけば?」というのが最適解だろう。

 でもボクはそんなふうに「これが正しい」という付き合い方が良いとは思わない。気に入らないこともあれば、自分に浮ついた気持ちが芽生えることもある、それは相手にとってもお互いさま。喧嘩してぶつかり合って近づいていく恋愛ほど尊いものはない。ゲイリーとアラナを観ていると(自分の経験にはまるで関係ないんだけど)そんな懐かしさにどっぷりと浸かってしまった。

 ま、それが許されるのは若いうちだけかもしれないけれどね。映画の中で楽しむくらい、好きな恋愛でいいじゃない。