PTA監督は優れた映画作家だとは思う。
ただ彼の映画から漂う
「私の才能、すごいだろう」
「私は映画を作るの、上手だろう」
という才気走った空気、肩に力の入った圧が鼻につくことも少なくなかった。
(それは往々にしてダニエル・デイ・ルイスの圧でもある)
ところが今回はいつものPTAと打って変わって、明朗な青春ラブコメを放り込んできて驚き。
大好きな『ブギーナイツ』の再来だ。
短いエピソードの積み重ね、
『黒い罠』の申し子とばかりに複雑な動きの長回しを使った緊張感の持続、
不器用に無軌道に野心を燃やし突っ走る魅力的な主人公、
脇役ながら強烈なインパクトを残して嵐のように去るキャラクター、
ただの甘酸っぱいラブコメに堕することを防ぐようにしばしば現れるサスペンス演出と不安感を煽るアングル、
ソウルミュージック。
自分が好きなPTAの味だけを抽出したような映画で終始ニコニコしながら観てしまった。
亡くなった盟友フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパーも良い演技を見せるじゃないか。
初々しさと若さゆえの万能感が共存したゲイリーは、若干18歳である今の彼が演じるからこそ光る役柄だ。
今作を観て覚えたトンネルから抜け出たような気持ち、以前にもあったな?
と考え思い至った。
イニャリトゥがズシンと難しい顔した映画ばかり作ったあとに『バードマン』で垢抜けた時と同じ高揚感だ。
スピルバーグがエンタメに極振りした作品と社会派に極振りした作品を並行して作るように、
PTAも
重厚路線(ザ・マスターやゼアウィルビーブラッド)
明朗路線(ブギーナイツやリコリスピザ)
の間を良いバランスでスイングしてほしいなあと勝手に思う次第。
ところで今作と同じく少年と(うんと)年上の女性が恋に落ちる『ハロルドとモード』に
「リコリスは好き?」
なんて台詞が出てくるけど、意識はしてるのだろうか?
ご存知の方いたら教えてください!