ひろゆき

リコリス・ピザのひろゆきのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.7
銀幕短評(#653)

「リコリス・ピザ」
2021年、アメリカ。2時間14分。

総合評価 73点。

鉄器時代のヒトが石器時代にあと戻りするのがむずかしいのと同様に、現代ネット社会の恩恵を わたしたちが捨て去ることはむずかしい。しかしいま過渡期にあるわたしたちは ネット社会の功罪を知っているし、さらにはわたしの世代は、未ネット化(つまりアナログ)社会をノスタルジックに思いかえす 特権ある端境(はざかい)時代を生きている。

あのときはたとえば、好きな女の子の家にある電話(当時の日本は一家に一台の黒電話だ)にかけるときのドキドキ感。じぶんは家族の耳をのがれて毎度公衆電話からかける。電話があまりひんぱんであったり長時間であれば、彼女の家族のヒンシュクを買うかもしれない。でもやはり毎日声を聞きたい。またたとえば、約束のデートをするにも はじめての町は不案内だし、どこの食事がおいしいかも勘だよりだ。そもそもカーナビなどないから、道路地図帳の改ページを気にしながらのドライブに神経をつかう。しかし とりわけうれしいのは、味気ない電子メッセージとはちがって、折々に受け取る 手ざわりと厚み重みのあるラブレターだ。

デジタル・デバイドということばがあるように、アナログ・デバイドという概念もあっていいと思う。年に一週間くらいは、デジタル・デバイスが完全マヒする時間があるとたのしい。そこでのし上がるのは、わたしの世代だ。わたしは そら色ボディに赤革シートのマニュアル6段変速2座オープンカーを駆る。もちろんカーナビなど付いていない。愛車で遠くに走る。前に走ったよりもっと遠くに。デジタル違和感に慣れた世代が 一転してアナログ優越感にひたる。まあ無人島にいけば、そういう感覚は年中いつでも味わえるのですが。

よく見ると、本作はPTAの脚本、監督ですね。主役の彼女もかれも なつかしのアナログ世界を駆け抜けている、あたまをフルにはたらかせて。
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