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リコリス・ピザのariy0shiのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.0
若さとは、「疾走している心の状態」。
その行き先はいつも不明確で、常に不安や失敗がつきまとう。
決してまっすぐではない道で、迷ったり戻ったり、ぶつかったり、あるいは寄り道しながらも、溢れんばかりのエネルギーに突き動かされながら前へ、前へと進んでいく。

これ、映画『リコリス・ピザ』を観ての感想。

1970年代、ハリウッドに近いサンフェルナンド・バレーを舞台とした本作のテーマは、ずばり「Boy Meets Girl」。つまり男女が出会い、徐々に惹かれ合い、また時に衝突しながらもお互いを求め合っていく恋愛ストーリーだ。

15歳の高校生ゲイリーが、学校のイヤーブックの撮影会で出会ったカメラマンの助手である25歳のアラナに一目惚れ。最初はゲイリーを子供扱いして相手にしなかったアラナも、ゲイリーと交流を深めていくうちに少しずつ心を奪われていく。

この2人、劇中でよく「走る」のだ。例えばゲイリーが殺人犯に間違われて連行された時、アラナは全力で走り警察に駆けつける。また人違いが明らかになって解放された時も、今度は2人並んで走り出す。前者は相手を心配し思うがゆえの全力疾走、後者は互いの心が寄り添ったことを感じたあとの、すがすがしい喜びをあらわした疾走だ。

なんとも甘いお話じゃないか、とキュンとしているだけでは終わらず、先行き不透明だった1970年代の時代背景や、狂気をはらむショウビズの闇、そんななかで自分たちはどう生きていくべきかといった「Coming of Age」、大人になっていくというテーマも描かれている。

渦中にいる時はとにかく必死で、何だかよくわからなかったことが、時が経つとくっきりとした輪郭を持ちはじめるのはよくあること。

こうした「かつて若かった」立場でこの映画を観れば、青春期の甘酸っぱい記憶を「なぞり、懐かしむ」ことになるのだが、それではどうももったいない。青春という時期を「既知化」して捉え惰性化するぐらいなら、むしろあえて「未知化」して、本質に迫った方がいいと思うからだ。

たとえスピードは遅くなっても、前へ進む力が生きている限り、いくつになってもそれは「若さ」なんじゃないだろうか。瑞々しい恋愛映画からも、まだ学ぶべきことはあると思う。
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