オクターヴ

リコリス・ピザのオクターヴのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.7
なぜあのオープニングが泣けるのか自分でもわからない。アラナとゲイリーが出会ったキラキラしたあの瞬間がエンディングにも見えるからという理屈で納得させているが、これからどのような物語が展開されるのか?と観ていたら本当のエンディングになってしまった。アラナのふと素に戻るような表情が印象的だ。ふたりに精神的な年齢差があるようには見えない。常識も非常識もふたりの中にはしっかりとある。重要なのはふたりがともに過ごした時間であり、それに対して恋人だとか友達だとかに分類する意味などないはずだ。流れるような日々を一緒に走った。ゲイリーは感情だけで行動しないところがにくいんだよね。暴走しそうなんだけど、ちゃんとブレーキをかけるところはかける。あの若さで器のでかさが尋常じゃなく、とはいえ子供っぽい部分もあるから可愛いし、なんだか嫉妬の仕方も大人なんだよな。なかなか他の映画にはいないキャラクターだね。アラナとゲイリーを見ていると、いっときの感情で流れていくのではなく、そこに冒険にも見えるスリリングな要素がけっこうあって、この時間は何なの?という無駄にすら見えるシーンの連鎖すら、ふたりの仲をたしかに結んでいくものになると感じたんだよね。これは恋愛映画の中にある冒険映画なんだと思う。ベッドシーンに入りそうなところは少し泣けたんだよね。ここって、このあとのゲイリーの行動でもわかるんだけど、お互い今の欲望だけで押し切らないところがある。何か一つでも順番を間違えたら全部終わっちゃう感じもするのよ。繊細な映画でもあるのかなと。けっこうプロセスにも意味がある気がする。丁寧に積み重ねていく物語。いろいろ書いたけど、PTAの最高傑作だと思うし、狙って撮れるものじゃない何か撮ってみたら予想以上のものが撮れて、うまくつながったという映画にも見えた。計算されていない何かね。だから観ていて面白かった。傑作です。