品川巻

ダンサー・イン・ザ・ダーク 4Kデジタルリマスター版の品川巻のレビュー・感想・評価

4.6
映画好きの家族から、唯一鑑賞禁止令が出されていた本作。(学生時代)

版権切れで日本最終上映になると聞き、極音上映に駆け込み。
""極音""と言うからには音を極めてくれ〜〜と思いつつもこれまでのミニシアターの音響の肩透かしからあまり期待しきれなかった。けど、今回は大当たり。
大好きなビョークの歌声が足の裏から体内に振動して、大袈裟でなく悪い意味でもなく、寒気が止まらなかった。
そして今までで一番、映画館が怖かった。

この映画は、セルマの背景が不条理なのであって、セルマの顛末が気の毒とは一概に言い切れない。

あの状況で秘密を話せなかったのは、
①移民だから差別される
②被害者が警察なので揉み消される
③保釈されても失明した自分には仕事がない
④症状が悪化するので病気のことを息子に伝えられない
という理由があって、どれも彼女の努力次第では変えられないものだけど、
あの最後の結末に関しては、セルマの選択によるものだから。

彼女が好転できるタイミングは、ビルを撃つ前も、投獄後もいくらでもあったし、
病気の事実を息子に伝えなくても、貯金した理由だけ証拠提出することだって出来たかもしれない。

それでも彼女があの選択をしたのは、息子のためを想っての行動とも言えるけど、
同じ病気を遺伝させてしまった自分へのけじめとして、法の下の受動的な処刑ではなく能動的な自死を選んだように思えた。

セルマにとって失明=死で、ジーンに愛情を注ぐことよりも視力を失わせないことに固執し続ける。
暗闇に慣れてしまったからこそ、息子の手術以外の"光"は彼女にとって眩しいだけのものになっていたのかもしれない。

ビョークはセルマに歌声と逃げ場所を与え、セルマは観客の誰かの人生を照らした。
その事実だけでこの映画は、そしてビョークは、セルマと私達を救っている。
品川巻

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