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三度目の、正直のEDDIEのレビュー・感想・評価

三度目の、正直(2021年製作の映画)
3.1
立場の異なる妻2人を主軸に置き、夫婦間のディスコミュニケーションや人間模様の複雑さを表現した意欲作。
野原位監督デビュー作にして、川村りらの脚本&主演作。『ハッピーアワー』好きの自分としてはオールスターキャストだったのでその点満足。

〈ポイント〉
・人間がどんなに互いを想い合ってもディスコミュニケーションが起きうるリアルを描写
・“子を持つ”ことの意味を考えさせられる
・濱口竜介作品『ハッピーアワー』のキャストが勢揃いなオールスターキャスト
・濱口竜介作品の助監督や共同脚本を長年務めた野原位の劇場映画監督デビュー作
・題材は重め

〈雑感〉
濱口竜介監督の『ハッピーアワー』という傑作。317分の長尺にも及ぶ物語はあまりにも衝撃的で、しかし時間の長さを感じずのめり込める没入度から私は一気に作品のファンになりました。
キャストはほとんどが演技未経験など、決して演技が上手いとは言えないのに見入ってしまう…緻密に計算し尽くされた濱口ワールドを堪能しました。

その『ハッピーアワー』で4人の女性主人公のうち1人である純役を演じた川村りらが脚本から携わり、主演を務めたのが本作です。
『ハッピーアワー』で純さん派だった私としては無視できない作品でした。

“子を授かる”ことに縁のない月島春という女性。蘭という娘のいる男性・宗一朗とは8年間パートナーとして暮らしており、蘭はカナダ留学が決まったことで2人のもとを離れていきます。
春と蘭は母娘のようでもあり、親友同士のようでもあり、とても仲は良い様子。
しかし、だからといって夫婦仲(正式には夫婦ではない模様)が円満というわけではなく、蘭という緩衝材のような役割がいなくなった途端2人の関係性が大きく崩れていきます。

なぜ春は子を持つことに執拗にこだわるのか、一方弟夫婦は子供もおり家庭円満の様子。ここも傍から見たらという但し書きが入るような複雑な事情が絡んでくるのです。

まぁ夫婦であれ、恋人であれ、友人同士であれ、そこに少しの綻びがあれば心の中に不満が溜まりに溜まっていきます。
それはいざとなった時に爆発してからはもはや修復が不可能だったりします。
本作はそんな人間の複雑な胸中を上手く表現しており、特にクライマックスの毅と美香子の車中のシーンは本作のハイライトと呼べるほど印象的でした。

とはいえ、やはり濱口竜介監督作品とは大きく異なるのが作品に対する没入度。
作風や淡々とセリフを読むような独特のテンポなど、共通点は浮かび上がるものの、全体を通して画的な楽しさが少ないのはマイナスポイントでした。
濱口作品は淡々と進むにも関わらず独特でリズミカルなテンポが計算し尽くされていて、どんなに上映時間が長くても飽きが来ない一種の職人芸を見せてくれます。
本作は残念ながら場面切り替わりのタイミングやキャラの把握など追いつかぬまま話が進んでいくため、イマイチ没入度に欠けるんですね。
それでも興味深い題材で、いくつか印象に残るポイントはあったため、一定数の評価には至ったわけですが、いい脚本家が必ずいい演出ができる監督だとは限らないということでしょうか。
きっと今後も作品を生み出してくれるであろう野原位監督には期待をしたいと思います。

余談ですが、本作鑑賞時は野原監督、川村りらさん、出村弘美さん、影吉紗都さん登壇の上映後舞台挨拶付きでした。
川村さんや出村さんのトークによると、やはり濱口竜介監督は「はい」や「いいえ」なども含め細かく台本に反映させるぐらい緻密だそうで、一方の野原位監督は一定のアドリブを入れるなど役者に委ねる部分も多く自由度が高かったとのことです。
どちらが良いという話ではないですが、この辺に違いが出ているのかもしれないなぁと感じた次第です。

〈キャスト〉
月島春(川村りら)
月島毅※春の弟(小林勝行)
月島美香子※毅の妻(出村弘美)
月島生人/樋口明(川村知)
野田宗一朗(田辺泰信)
大藪賢治(謝花喜天)
野田蘭(影吉紗都)

※2022年新作映画14本目
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