ゆうき

もうひとりのトムのゆうきのレビュー・感想・評価

もうひとりのトム(2021年製作の映画)
3.3
精神の病(ADHD)と判定された息子のトムとシングルマザーの主人公の物語。主人公は薬の服用で息子の状態を改善させようと試みるが、色々な困難が待ち受けていた…

と言っても、ストーリーは決して陰鬱なものではなく、普段は仲良く楽しく親子が過ごしている描写は、むしろ観ている者を幸せな気分にさせてくれると思う。それでも、親子関係の困難や(おそらく移民)生活の苦難などもあり、順風満帆とは言えない日々を過ごしているところは、普段は人種問題などとは縁が遠く、子供もいない生活をしている自分にとって想像しきれない感覚なのだろう。

舞台はおそらくアメリカだと思うが、日本でも同様な親子関係を抱えている人もきっといるだろうし、気付かないだけで身の回りにもいるかもしれない。一見すると特異な設定かもしれないが、日本に住んでいる自身の身にも似たような困難が降りかかる可能性だってあるのだ。そう考えて観るのと、海の向こうで起きている他人の出来事として観るのとでは、全く違う感想を抱くかもしれない。

この親子の関係は順調とは言えない経過を過ごす事になるが、物語の終盤に近づくにつれて、何となく「こういう親子の関係性もありかな」と思えてくる。それはたぶん、どのような困難があっても主体的に生きている主人公に自分が共感してしまったからなんだろうな、とふと思った。たぶん、この環境下では生真面目な日本人だったらドツボにはまりそうな気がする…それはつまり、結果として子供にとっても不幸でしかない。

精神の健全性って、複雑で厄介な事柄だ。
ゆうき

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