いの

母の聖戦/市民のいののレビュー・感想・評価

母の聖戦/市民(2021年製作の映画)
4.0
観るのがしんどい映画だろうということは観る前から予想がつき、観るのにさえ弱気になり及び腰になり、観なくて済ませる言い訳をアレコレ自分にし始めた。そろそろ決断しないといけない時間になった時、そういえば監督は女性だったことを思い出し、だったらわたしにも観ることが出来るかもと、劇場に。結果、行って良かったです。容赦ない映画だし甘っちょろさなど何処にもないけれど、でも、女性の強さや粘り強さが細やかに表現されていたと思う。母は、娘を取り戻したいと決めたら、もうそれ以外のことなんか目に入らずとにかく一直線に進む。妨害されたり脅されたりしても決して屈しない。車を運転する母の横顔をカメラは近い位置で長く捉える。それは少しミシェル・フランコの映画を思い出させる。


メキシコでは誘拐ビジネスが横行。「俺に任せとけ」なんて言う夫はもちろん頼りにならない。通りを歩く人はほとんど登場せず、横の繋がりや支え合いもほとんどない。「助けて」と道路で叫んだって誰も戸口から顔を出してくれない。警察は腐ってるし軍もあてになるんだかならないんだか。原題は「市民」だけど、「市民」という単語から普段わたしが想起するようなものは全く提示されない。犯罪組織と同居しているような市民は、誰が敵で誰が味方かわからないなかで、連帯できず語り合うこともできず希望も抱くことができない。母はこの映画を閉じたそのあとでも報復を受けるのだろうか。きっと受けるのだろう。だからこそ映画は訴える。これは現実だと。



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メモ

・共同制作者はダルデンヌ兄弟だけでなく、ミシェル・フランコ、そしてクリスティアン・ムンジウだとのこと。クリスティアン・ムンジウ監督作品を観たことがないので、観てみようと思う。

・メキシコは年間6万件に及ぶ誘拐事件が頻発しているとのこと
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