旅するランナー

オマージュの旅するランナーのレビュー・感想・評価

オマージュ(2021年製作の映画)
4.1
【韓国女性映画人三羽ガラス】

「フェイブルマンズ」「エンドロールのつづき」。
監督本人の映画体験を描いた極私的作品が続いています。
前掲2作は監督本人の少年・青年時代の映画との出会いを描いていますが、
この韓国映画は、現在のシン・スウォン監督が出会う、1960年代に活動した女性映画監督の先駆者を描いています。

2011年にテレビ局からの依頼で、韓国映画界初の女性監督パク・ナモク監督と、同時代のホン・ウノン監督について取材し、番組にした経験が元になっています。
今作では、ホン・ウノン監督作品「女判事」の修復作業のために、失われたフィルムをめぐる旅が始まります。
そして、当時の女性監督の苦労と、それでも作品を完成させようとする情熱・勇気を知っていくのです。
「パラサイト 半地下の家族」の家政婦として強烈な印象を残した、イ・ジョンウンがスォン監督の分身を演じるわけですけど、映画製作と主婦・母親としての役割に思い悩み、自身の人生を見つめ直す姿を見事に演じています。
女性監督として、先駆者へのオマージュを強く感じます。

日本の女性監督の歴史はどうでしょうか?
最初と二番目の女性映画監督は、ともに溝口健二監督絡みの女性になります。
一人目は、溝口監督の下で助監督などを担当していた坂根田鶴子。
彼女の初監督作品「初姿」の封切りは1936年3月です。
二人目は、溝口監督映画に多数出演したスター女優、田中絹代。
「恋文」(1953年)から「お吟さま」(1962年)まで合計6本の劇映画を監督しています。

話を本作に戻します。
フィルムをめぐる旅の途中、映画製作に携わる女性3人の古い写真の裏に「三羽ガラス」と書かれています。
この発音が、日本語に近いんですよ。
「高速道路」もよく似てますけど。
あと、コーヒーに生卵を入れて飲むおじさんが出てくるんですけど、これは驚きましたね。
それと、韓国でも単館上映館の経営は厳しいようで、ロケに使われている、原州市のアカデミー劇場も既に閉館してしまっているとのことです。
この劇場のスクリーンを使った、映画タイトル表示には鳥肌立ちましたけどね。