骨折り損

マイスモールランドの骨折り損のレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
3.9
日本で外国人の難民問題を扱うというだけでとても意義のある作品だが、題材だけでなくちゃんと物語が面白かった。

かなり深刻な社会問題を扱っているが、最初から重い雰囲気ではなく、日常から難民としての課題を上手く切り取っている為、クルドの難民をこれまで身近に感じていなかった人でもいつしか自分ごとのように考えさせられる構成になっている。

その日常からの視点は具体的に言うと、来月の家賃をどうしようか、大学に行くお金はどうしようかという今目の前のものに頭を悩ませる主人公たちにしっかり説得力があった点だ。それはやはり取材の力だと思われる。

キャラクターも皆、人としての愛嬌を感じられてとても好印象だった。学校の先生もコンビニの店長もお客さんも、主人公を時に傷つける存在だが、そんな彼らも根の優しさを感じるからこそ嫌いになれない難しさがあった。主人公の家族も皆素敵だったし、バイト先の高校生、奥平大兼もやっぱり最高だったし、何より主人公の表情の変化は目を見張るものがあった。

とても丁寧に作られた作品だったからこそ、嫌悪感を強く感じるシーンもあってそこは惜しいと感じた。主人公がお金に困ってパパ活をするシーン、あれ絶対に必要?そもそも、援助交際という事象自体が不快なのであまり映像で見たいものではない。どうしても描写として重要なら我慢するが、キャラクターの傷を描くのに短絡的に使われ過ぎている気がする。全てのキャラクターを多面的に表現していて良かったのに、パパ活男だけは急に人物の解像度が極端に下がった印象を受けた。「日本から出てけ!」とかそんな安易な台詞言わせるとは思わなくて驚いた。正直、このパパ活男にヘイトを感じて多面的に描く気もなくただの悪として見せたいだけなら、わざわざ繊細に運ばれていた物語に加えないで欲しかった。

この映画がとても好きだったから、自分の中でこのパパ活シーンを忘れたい思いが強い。美しいものばかりで埋め尽くして欲しい訳ではないが、この主人公の物語を思い出す時に、持っておきたくないものもあるよ。
骨折り損

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