hawelka1992

マイスモールランドのhawelka1992のネタバレレビュー・内容・結末

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

観ていてしんどかった。

クルド人のことは、国家を持たない民族で最大の人数がいて、日本でも多くの難民がいることは知っていたが、その程度の知識しかなかった。そして、日本の難民申請の厳しさ、入管の酷さというのはニュースでよく報じられていたので、興味を持ってみた。しかし、クルド人として生まれ、仕方なく逃げてきただけの少女にこれほど多くを背負わせている、と思うと、罪悪感と無力感で画面から目を逸らしたくなる。

日本人が理不尽にクルド人に押し付ける負担があり、最終的には、クルド人の大人達すらも無責任に、優等生で、クルド人と日本の橋渡しが唯一できるサーリャに大きな負担を押し付ける。おかしいと思いながらも、仕方ないよね、と多くのことを我慢して過ごしているサーリャと聡太。それは仕方なくなんかない、と二人は慰め合うが、最後はサーリャを取り巻く現実の大きさに何も言えなくなる。

マイスモールランドというタイトル通り、身の回りの小さな範囲の話ではあるが、そこですら様々なレイヤーがあり、逸脱していると見做される。クルド人と日本人の境界、国境、東京と埼玉の境界。さまざまな境界というのが外から強制的に外挿されてくるが、実情は、線の位置も違うし、揺らぎがあり曖昧でもある。

興味深いのは、サーリャはルールを破って東京に何度も行くのに、実際には何の問題にもならないことだ。もちろん正式にバレたら、法的に問題になるのだろう。しかし、彼女の行動を実際に制限するのは、颯太の母や叔父、発覚を恐れた日本人の大人たちだ。そして、それを作り出す、外国人に対する抑圧だ。ドイツ人だというウソがちょうどいいという空気や、クルド人の誇りを持てというアイデンティティの世代差、外国人なのに日本語が上手ねとか、私にも色々あるの、という発言の無神経さ。ふだんの我々のような視点に変われば普通のこととして捉えられるような抑圧の表現が、とてもアクチュアルに思える。

嵐梨奈は、今作が女優初挑戦ということであり、セリフとかは素人っぽさが出ることもあったけど、そこにいるだけで目を引く存在感のある女性で、テーマにもあっていてとてもよかった。颯太もすごい普通の高校生って感じが良い。

静かでキレイな劇伴だなーと思ってたら、エンディングにRoth bart baronの声で、なるほどと思った。

テーマからは仕方がないが、あと少しポップさがあれば完璧。良作だが、やっぱり辛いし、そして何もできない自分に嫌気が差すような気持ちになるので、手放しに誉めるのも違う気がする。難しい。
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