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マイスモールランドのbebeのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.4
正確にいえば、問題は「主人公ら家族が在留資格を失うこと」ではないのだろう。

『マイスモールワールド』「小さい」というのはひどく漠然とした、大きな概念。
 実際、映画を観る前にこのタイトルを見たところで、たいしたイメージは湧かない。曖昧にぼんやりと「小さい」。そんな感じ。
 観終わって一転。タイトルに立ち返って衝撃を受けた。彼女らの「小さな世界」は、それ以上に小さく、小さくなり、身動きが取れなくなってしまうまでに。自分が考えていた「小ささ」のその「大きさ」に驚いた。そしてこの認識のギャップこそが、「他人事」の輪郭なのだろうと思う。

2022年製作・公開、非常にアクチュアルなテーマをアクチュアルに扱っている。

クルド式の結婚式から始まる作品。やはり冠婚葬祭と食事、言語は「多文化」を語る上で避けられない。

冒頭「3つの言語」
1.今住んでいる場所の言語(日本語)
2.かつて住んでいた場所の言語(トルコ語?)
3.民族に伝わる言語(クルド語、クルマンジー方言?らしい。)

 日本といえば日本人、日本語。「単一民族国家」くらいに呼んでいいかもしれない。外国人は「外人」。
 この点については弟のセリフが印象的だった。「僕は宇宙人。」これに対して父が「なぜそんなことを?」弟の答えもそうだが、姉である主人公が苦もなく理解できていたのは、きっと同じ悩みに当たったことがあったからだろう。

 そんな主人公はクルド人コミュニティで働く。日本語しか話せない家族やクルド語しか話せないクルド人のように、彼女の属するコミュニティは多種多様な「言語の壁」を抱えている。それらにまたがる希少な、稀有な存在である主人公が抱える「仕事」。理不尽。でも…。
 この感覚は聾唖の家族を描いた『エール』や『CODA』に似ている。

 役とはいえ、クルド人が結論として「我々の国はない」と言っているのには、考えさせられる。厳密には「ない」という表現は適切ではないだろうし、そもそも映画を観たから考えましたで進歩することでもない。

 この映画は結局何だったんだろうか。
 国のシステムが悪いのか、否。VISAは必要。難民を受け入れ続けることもできないだろうし、国による認定と管理も確かに必要。でも…。
 社会的なテーマを扱ったものの、主人公らが属したクルド人コミュニティは明らかに脇役だった。この映画はクルド人が〜とか、難民が〜とか、そういう大きなものよりも、主人公家族、もっといえば主人公個人の物語。このことはタイトルの『マイ』がよく示すところ。
 難民申請が通らなかった理由なんて知らない。サーリャも知らない。自分がクルド人と日本人どちらかなんて分からない。サーリャもきっとそう。この後どうなるかは分からない。サーリャも。
 まさに祈りのような映画に感じる。
 彼女らに光を。
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