たくみ

マイスモールランドのたくみのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
3.8
【こんにちは と さようなら】
公開当時上映している映画館が近場になく観れなかった作品。やっと鑑賞できました。
クルド難民にフォーカスを充て、日本の難民受け入れ制度に翻弄される一家を描いた作品です。
クルドと聞くと悪い噂がネットでよく流れてきますが、大半がそうではなく、日本に馴染もうと奮闘している人々であるという事を認識させられる作品でした。

本作は、日常の描き方が豊かで良かったです。
在留資格が奪われるまでは異国の地に馴染もうとする普通の家族が描かれています。
だからこそ、在留資格剥奪後に生活が一変する感じが見ていて辛いです。
高校生が兄弟2人を支えながら学校も通って生活費も稼ぐ事なんて普通に考えて難しいと思います。
それにプラスしてバイトはクビになり、大学への推薦も取り消されてしまう。
何も悪い事をしていない彼女がここまで理不尽に巻き込まれるのは見てられなかったです。
今すぐお金が必要となり、結局売春に手を伸ばしてしまう負のスパイラルは止められず心身がボロボロになる。
これが日本の片隅で知らぬ間に起きていると思うと日本も変わらないといけないと強く感じました。

そんな状況の中でも手を指し伸ばしてくれる人がいて、その温もりが何倍にも温かく感じました。
奥平大兼さん演じる聡太の優しさがとても良かったです。
おそらく恋愛感情があるからこその優しさだけど、彼女が理由があって聡太を遠ざけている事を理解して干渉しすぎない姿が本当の愛情だと感じました。
コンビニの店長もクビにしたい訳ではなくて、店や自分の生活を守るために現行のルールに則って対処しなくてはいけない。
だけど完全に見捨てる事は出来ないから今できる精一杯の支援をする姿は、現状の日本人の姿勢を表しているように感じました。

ニュースで得る情報だけでは理解できない側面を物語に落とし込み、自分事にしてくれた本作はそれだけで鑑賞した意味が有りました。
日常がいきなり奪われ、人として扱われなくなってしまう現状の制度。
しかし同時に、制度を緩くすればそれにつけこむ悪い人々もいるので、緩和する事も難しいのだろうなと感じました。
日本は難民を受け入れない国として有名ですが、それにはそれなりの理由はあると思います。
ただ、主人公であるサーリャと兄妹は最終的には生活と父親を奪われてしまっている訳で、これが難民条約を批准している国の対応として合っているのかは疑問でした。
いきなり生活を奪う様なやり方には賛同できないです。

音を立てながらラーメンを食べて怒られる、そんな日常が再び訪れてほしいと感じた作品でした。

【その他メモ・独り言】
・日本は1981年に難民条約を批准。
・クルド人の難民申請が認可されないのはトルコ政府への忖度の可能性がある。
たくみ

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