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川崎競輪のべのレビュー・感想・評価

川崎競輪(2016年製作の映画)
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言葉にし得ないような冬の空気感。寒いようで暖かくて、息を吸えば冬の匂いと乾燥した空気が胸いっぱいに充満しそうな、そんな空気感をギュッと画面に詰め込んでいて、その素敵さにまず涙が出そうになった。

競輪を趣味とする人々のドキュメンタリーでありながら、そこで語られているのは競輪に関することというよりは、むしろ刹那的に生きる彼らの人生観だ。
競輪場のモニター前に集い、時には選手の愚痴を周囲と語らいながらレースの行く末を見守る彼ら。そして、勝負が決するや否や散り散りになる彼ら。
そんな、瞬間の積み重ねで人生の連続性を形成していくような生き方に、彼らは自覚的である。
サードプレイスとも言える立ち飲み屋で語られる内容は競輪のみならず、思いのほか身体や人生に関する事柄も多い。
皆、それぞれ先の人生に対してある種の諦念のようなものがあり、来たる「死」を受け入れている。
それでも彼らは誰一人として悲観的にそれを語ることはない。むしろ、それを受け入れて尚、刹那的な快楽に身を委ねようとする。
「ヨシ、明日死んでもいいように、ハイ山田さん、シャケシャケ、シャケ食べよう。」
この言葉は彼らの本質を端的に表している。なにも鮭と命とが天秤で釣り合うということを言っているのではなく、何をしても「死」に近づくのだから、その道程を瞬間的な快楽で埋めようとしているように見える。
彼らの目線の高さに合わせた徹底したカメラ位置も相まって、向こう見ずで破滅的とも言えるこの生き方に、ある種の美しささえ感じてしまう。

冬の空気感を閉じ込めつつも、競輪場で流れるヴィヴァルディの「春」がその訪れを感じさせるように、巡っていく季節の中で彼らは尚も、刹那的に生きているのだろう。

綺麗な作品だった。寒くなったら、お酒を飲みながらまた見よう。
べ