コマミー

君は行く先を知らないのコマミーのレビュー・感想・評価

君は行く先を知らない(2021年製作の映画)
3.9
【先が見えない】



「人生タクシー」などのイランの名匠"ジャファル・パナヒ"。彼は「チャドルと生きる」や「オフサイドガールズ」などで"イラン政府"を批判する内容の映画を作り続けた。しかし、この2作は同時にイランでは上映禁止。ジャファルも2009年の大統領選で改革派の候補を支持して、保守派と対立して2010年に逮捕された。各国の映画人はこのイラン政府の判断に猛烈に抗議し、ジャファルの解放を要求。同年5月に20億リヤルで釈放された。しかし、禁錮6年と20年間の映画製作禁止・脚本執筆・メディア対応・海外渡航禁止が下された。
しかし、2022年7月、再び逮捕された…。

イランでは最近だとヒジャブに関する抗議が行われたり、イランではあらゆる"抑圧"が行われている。そんな政府や思想からの抑圧から逃れる為、"極秘の出国"をする人も少なくないのだと言う。そんな過酷な問題に目をつけたのが、ジャファル・パナヒの息子、"パナー・パナヒ"だ。
"4人の家族"の"車での逃避行"を経て、"イランの現状"をぱっと見は"心温かく"描いてもあり、"哀しいロードムービー"としても描いている。

まずなぜ厳しい現状を描いているにも関わらず、「心温まる」のか?それは、哀しい表情を"歌やおちゃらけ"などで誤魔化してるシーンが多いからだ。車内では革命以前からあるヒット曲を流したり、それに乗せて"ヤンチャ盛りな次男"や家族がミュージカル調に歌い出したり、ある時はふざけ合ったり、ある時は涙は見せまいと"背中を向けていたり"と、哀しい表情を本編ではあまり見せていない。
これはイランの政府思想に"直接的に抗議の目を見せず"に、それを見ている"私達国外の人に対して"それを感じさせる演出の一つなのだろうと感じた。

そして私はあるシーンが、登場人物が「助けて…」または"イランを去る人達"に対して「行かないで…」と訴えかけるシーンに見えて仕方がなかった。

それは"父親"が"じっとこちらを見つめている"シーンとラストの"次男のミュージカル調"のシーンだ。まず父親は劇中で流れる音楽に乗せながら車内から窓越しなどでこちらを見つめたりしている。そして次男が歌う(または口パク)ラストシーンは、歌に乗せて「行かないで…」と語りかけている。そう、本作でもジャファルのように大胆に表現しているわけではないが、さりげなく政権や私達に対する訴えが表現されているのだ。
この家族の"行く先の見えない旅"を通して、イランの国民が直面している"奪われる自由"をパナー監督は描いていたのだ。

イランでこのような作品があとどれだけ作れるだろうか?"政府に都合の良い作品を作らなければならない"のは本当に辛いと思うし、イランの女性たちのヒジャブの件のように"解決しない抑圧"が山程ある事が分かった。
9月には父:ジャファル監督が命懸けで監督した最新作の公開が控えている。そちらも是非見てみたいのだが、その前にこちらの息子さんの作品を見るのも、イランの現状を知る素晴らしい機会を与えてくれたのではないだろうか?

本作と同列に並べられている「リトル・ミス・サンシャイン」が辿り着ける希望に向けて走る物語ならば、本作はこの先も見えるか分からない希望へ向けて走る物語なのではないだろうか?
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