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クナシリのdm10foreverのレビュー・感想・評価

クナシリ(2019年製作の映画)
3.9
【机上の空論】

17日に開催しました「不定期開催dm的映画祭in師走」の2本目であり、一連のレビューのトリを飾るのがこの作品「クナシリ」です。

いや~、さすがに1日4本観ると、レビュー纏めるのも一苦労ですわ・・。

その間に切ない事故もあって、子供たちとしんみりしながら「アナ雪」観て、ちょっとウルウルしたり・・。
うちの病院の近くなのよ、ホテルが。
だから、何かいろんなこと考えちゃうよね・・・
(どうして・・・?)(何があったん・・・?)
もう、何を言っても取り返しがつかないんだけどね。でも、やっぱり未だに信じられない・・・。

・・いかんいかん、レビューに入れなくなる。

という事で「クナシリ」です。

以前、お酒の勢いで「(北方領土を)取り返すなら戦争するしかないっしょ!?」って言った政治家がいました。
「正しい」「間違い」の議論はさておき、現実問題として考えた時、案外彼のキャラクターや話すタイミング、言葉のチョイスなど、諸々の原因で「あの発言」だけが一人歩きしている感は否めないな・・と。

きっと彼は「戦争しろ!」っていう事を言っているんじゃなくて「それくらい本気でロシアとやりあう覚悟がなければ、領土なんて取り返せないんだよ!」っていう意味での発言だと思うんです。
それは日本政府の弱腰外交に対する批判として。

勿論、僕も「戦争をしろ!」と言っているわけではないので、そこについては努々誤解のなきよう。
ただ根本的に「返還交渉」は今後も半永久的に平行線のままでしょうね、きっと。

だって、どっちも本気じゃないんだもん。

今政治家たちがやってる返還交渉だって、言葉は悪いけど「ポーズ」だよ、あんなの。
本気で還して欲しかったら、それなりの覚悟がなければ。
国と国が「領土の話」をするっていうのはそういうことだと思う。

現代の日本人の中で、果たしてどれくらいの人が「北方領土返還」を願っているのでしょうか?
願っていないわけではないけど、でも返還してもらってどうするんですか?っていう人が大半なんじゃないだろうか?
本当に返還されたら、そこに移り住む気はあるんだろうか?
もしかしたら、昔の島民やそのご家族は「移住したい」と言うかもしれない。
でも、日本という国が北方領土を取り返したい理由は国民の「アイデンティティ」に寄り添った先の話などでは毛頭なく、あくまでも「海域の確保」という現実。

北方領土問題はきっと本州の方にはあまり馴染みがないと思います・・・て言いたいところですが、ぶっちゃけた事を言えば、北海道に住む人間であっても正直なところ「返還に積極的に関わっている」「返還されるように常に願っている」なんて人は思っているほど多くはなくて、実は熱はそれ程高くはない。

むしろ「アメリカべったり」な日本のためにロシアが一肌脱いでくれるなんて事はありえないし、万が一そんな状況で事が動いたら、そのほうがよっぽど怖いってわかってる。

(裏で何を要求されるかわからん)

そんな感じで「現状維持という名の放置」もしくは「アメリカとロシアのバランスゲーム」という見方をする人のほうが多いのかもしれない。
結局、ロシアとはそういう付き合い方しかできないですよ。
だって日本はアメリカを選んだんだもん。そういうことだよ。

じゃあ、そういう国の政治的な柵(しがらみ)の届かない、実際のクナシリ島民たちは今何を思っているのだろうか?

――この作品ではソ連軍が上陸したあの日から現在までの「島の姿」を淡々と映し出す。
当時のソ連は「北方四島を占領した」という事実を内外に知らしめるために、それまで島にあった「日本」の名残を徹底的に排除する。
物は壊され、写真は燃やされ、建物は用途を変えられ、墓も壊され墓石は湖に捨てられた。

それでもロシア人の移民たちは知っていた。

「発展のためには、その過程は破壊される」のが宿命ならば、何故日本のものを壊したあと、ソ連はこの島を発展させないのだ?
レーニン像は建てても家のトイレひとつ未だに造ってもくれない。
レーニン像がそびえ立つ道路の直ぐ脇に建つ家の窓の近くを銀バエが飛び交っているのが現状なのだ。

それに引き換え、日本人はどんなに貧しくても勤勉で、常に高水準の仕事をすることも知っている。
もちろん、現在の日本という「国」がこの島を返還してほしがっているのは「海域」が目的だという事もわかっている。
だったら、この島に日本人を迎え入れればいい。
この島の海域で一緒に漁をすればいい。
この島に日本人が来ることで、生活の水準が上がり、雇用が生まれ、島が生き返るのだ。

ロシア領土でありながら、中央政府からは忘れられ、単なる「海域」の一部としか見られていない。
確かに「クリル発展計画」と称して目覚しいインフラ整備が行われている地区もあるが、それ以上に「取り残された人々」が圧倒的に多いのが現実。
未だにアフリカの貧困街のようなゴミの中で暮らす人々もたくさんいる。

しかし、それでも戦後70年以上経った今、彼らにとってはここが故郷であり、ここしか知らないという人もたくさんいるのだ。

なかなか一言で片付けるのは難しい話ではある。
何が正解なのか・・・なんて議論すら野暮なのかもしれない。
それぞれの「真実」が日本人、ロシア人の双方の記憶の中にあって、そのどちらも間違っていないのだ。

中東のように「領土問題=戦争」という形にならない事は幸いなことだけど、その代わり「平和的な協議」と称した「並走」がずっと続いてきた。

島からわずか20km先に見える北海道の明かりを見ながら寒さに凍える島民たちは、今、あの島で何を思って生活しているのだろうか・・・。

このドキュメンタリーの制作に当たっては、日本は一切タッチしていません。
なので、純粋に他国から見た「日本」の評価の一部とも取れます。
勿論、よい面も描かれていますが、「こう見られているんだな・・・」と恥かしいやら、げんなりしてしまう面もあります。
それでも、日本人として「客観的に見る日本」を知るひとつのきっかけにはなると思います。
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