Lila

オッペンハイマーのLilaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8
本日アメリカ公開されたので観てきました。近所のIMAX映画館は、向こう1週間満席です。最近の映画は長い!と騒ぐ方ですが、この3時間は没入レベルがエグ過ぎて、全く長く感じませんでした。ノーラン映画に間違いなしとは言うものの、遥かに期待を越えてます。

カウントダウンのシーンは、久しぶりに「怖くて」涙が流れました。その先の未来を知っているから怖いというのもありますが、シンプルにどんな破壊を見せられるのか、どんな音と描写で来るのかと本気で怖かったです。このシークエンスはお見事って言葉では片付けられない、ノーランワールド。ずっと音の扱いが凄いですが、音楽は終始狂気沙汰レベルで完璧にマッチしてます。「音響」って単語で括って良いのか悩みます。

オッペンハイマー役は、眼の魔力を持つキリアン・マーフィー以外には考えられません。彼の代表作となるでしょう。他のキャストはハマってる人とハマってない人まちまちでしたが、とにかく全員の魂が乗ってる事は伝わり、それがノーラン×題材が引き出す最大の演出でした。事前情報入れずに見る方なので、予告編に出てこないキャストのオンパレードに驚きっぱなし。ジョシュ・ハートネットはめちゃくちゃ久しぶりに観たので一瞬目を疑いましたが、誰より何より、ゲイリー・オールドマンが一番の鳥肌モンでした。

7月8月は非常に難しい時期なので、現時点で日本は未定扱いかと思いますが(と信じてますが)、これは観なければならない。映画としてどうこうは一旦横に置いて、とにかく観たら絶対に「考える」。戦後約80年経ついま、体感のない世代が多いいま、情報を色んな形で捉えられるいま、この「考える」事をノーランは誘導してくれてるのだと思います。終始演者が発する色んな意見や様々な描写を通じて、こちら側の意見を問うてきます。オッペンハイマーの事をここまで考えた事は今まであっただろうか?

私は、観終わって、車戻って、夕日眺めながら少しぼーっとしたあと、オッペンハイマーや今回の制作経緯を調べてみたり。余韻が凄くて、すぐ運転して帰ろう!って気持ちにはなれませんでした。歴史、原発、戦争に関して学び直し、記憶を更新しなければれならない、としっかり誘導されました。

アメリカ人で溢れかえる満席の映画館で日本人として観るには、中々難しいシーンが沢山あり、この複雑な想いこそ、私が日本人であるアイデンティティを再認識しました。歴史は変えられないですが、その歴史をどう捉えるか。

才能が破壊に利用されていく悲劇(風立ちぬもそうでしたね)。消化するのにかなり時間がかかりそうです。勉強してから、加筆する事間違いなしです。

なお、構成と内容的に英語の難易度は、ここ最近見た中でもかなり高めでした。加えてノーラン節の時空歪み、タイムラインの行き来、欺くセリフが散りばめられてます。よって、せめて背景、登場人物、大まかな内容は事前情報として入れた方が良いです。

あとこれは戦争映画ではなくて、オッペンハイマーの伝記映画です。

追記: 日本公開決まりましたね!何よりです。アカデミー賞13部門ノミネートも納得です。日本での反応が楽しみです。

追記2: アカデミー賞、見事な圧勝!ノーラン監督初受賞とのことで、この作品でようやく勝ち取ったことに重みを感じます。キリアンは納得中の納得。ずば抜けてました。撮影賞も想定内でしょう。IMAXで観ないと損です。

そして、ロバート・ダウニー・Jrは受賞時の態度の方が取り上げられちゃってますが、脇の甘さ含めて彼っぽいというか。

アメリカに住んでる日本人として抱く印象は、白人社会あるある「相手にしてない」現象。その根底に何が潜んでいるのか、権力、カースト、差別、お金、プライド、何かは判断難しいです。

でも単純に人として、何かを渡された時に目もくれずに無言で取るか?と考えてみた場合、無意識なら躾とマナーがなってないから擁護できません。結局、問題行動である事には変わりありません。

彼は「オッペンハイマー」で評価されたのに。この展開の皮肉さたるや。目の前の人に対する敬意、礼儀を忘れない心、慢心に溺れない尊厳、これらを醸成しなければならない。人間の愚かさを描いた作品に関わったからこそ、あるべき姿を体現してほしかったです。
Lila

Lila