私は幼少期の6年間をアメリカで過ごし、両親もアメリカ人であるため、太平洋戦争や広島・長崎の悲劇は、自分のアイデンティティが揺らいでしまうため、これまで避けて通ってきた話題でした。しかし、これは避けては通れない歴史的な出来事です。本作の主人公は、原爆の父として知られるロバート・オッペンハイマーです。彼を中心に据えた映画であり、その内容のためか、日本ではまだ劇場公開されていない状況です。私は特殊な方法(合法)を通じてこの作品を視聴する機会を得ました。
物語は、オッペンハイマー博士が赤狩りにより公聴会に呼ばれる場面から始まります。彼が機密情報へのアクセス権を持つ資格があるかどうかが問題となっています。彼の弟や妻、愛人が共産党員であったため、彼自身も共産主義者ではないかと疑われていたのです。彼の証言や、証人の証言を通じて、物語は進んでいきます。彼がマンハッタン計画にどのように関わり、原爆を開発するに至ったかが描かれます。
先に触れた通り、本作は日本公開が未定であるものの、原爆を礼賛する映画では決してありません。確かにオッペンハイマーは日本の原爆投下を提案し、戦後も投下が正当だったと主張し続けました。しかし、日本の降伏後、彼が国を救ったヒーローとして演説するシーンがあります。観客は拍手と歓声を上げますが、彼にはそれが聞こえない。彼の前には、閃光によって灰となる観客の幻影が現れ、床には黒焦げの炭が彼の足をつかむ...。表情はみるみるうちに精気を失い死人のような顔になる。これは彼の精神状態が正常でないこと、また、彼の心の深層にある原爆投下への言葉にできない後悔を示しています。実際、彼は広島と長崎の被害についての講演を聞き入っているシーンもあります。原爆実験成功の際に呟いた
「僕は世界の破壊者になった…」
これがすべてを表しているのだろうと思いました
原爆投下のニュースに歓声を上げるアメリカ人の描写は非常にグロテスクです。これが当時の常識的感覚であったことは恐ろしいです。しかし、ノーランは高揚感を醸し出すBGMではなく、憂鬱で恐ろしい音楽を選び、その演出の巧みさを示しています。
登場人物が非常に多く、物語が複雑に絡み合っているため、観客は混乱するかもしれません。ストローズというメガネをかけたおじいさんのキャラクターがロバート・ダウニー・ジュニアだと映画の終盤で気づき、今回、一番の衝撃を受けました(笑)フローレンス・ピュー、マット・デイモン、ジェイソン・クラーク、ゲイリー・オールドマンなど、豪華なキャストが出演しています。キリアン・マーフィーがオッペンハイマーを見事に演じ、他にもニールス・ボーア役のケネス・ブラナーなど、ノーラン作品の常連俳優たちの演技も見どころです。
バービーの悪質ないたずらの一件もあり、ユニバーサルは日本公開を渋っていることは残念ですが、この映画は日本公開されるべき作品です。アメリカや原爆を賛美する内容ではなく、深い洞察を与えてくれます。
公開を期待し、満点にしたいと思います