カタパルトスープレックス

オッペンハイマーのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
クリストファー・ノーラン監督が原子爆弾の生みの親と呼ばれるロバート・オッペンハイマーを描いた作品です。

まず一言。とてもいい映画です。クリストファー・ノーラン監督といえば「時間」を独創的な発想で使ったり、大掛かりな仕掛けが特徴です。それが量子物理学者の話って、大丈夫?って思ってました。すんません、大丈夫でした。

本作のメッセージの一つに反戦があるとおもいます。しかし、テーマはもっと複雑です。まだ、自分の中でも整理ができていない。そもそもロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)がとても複雑な人です。オッペンハイマーのキャラクター造形がこの作品の中枢にあると言ってもいい。トリニティ実験や広島や長崎への原爆投下が本作のクライマックスではないのもそのため。

本作はオッペンハイマー以外にもキャラクター造形がとても素晴らしい。グローヴス大佐を演じたマット・デイモンも見事なオッサンぶり。でも、ちゃんとアニキっぽさが残ってる。あと、ルイス・ストロース博士を演じたロバート・ダウニーJr。特殊メイクをしてたのでしょうが、最初、全くわかりませんでした。あのキャラクターはロバート・ダウニーJrの『アイアンマン』で見せた傲慢さがピッタリでした。分からなかったといえば、ゲイリー・オールドマンも!しかし、なんと言ってもよかったのが フローレンス・ピューです。イノセントなのに妖艶。『ミッドサマー』から更に一皮むけた演技だったと思います。

ストーリー自体はオッペンハイマーの自伝なのですが、サスペンスの要素も入ってます。これもオッペンハイマーの複雑な人間性から起因してるので、サスペンスも必要要素だったと思います。そのサスペンス面を演出してるのがノーラン監督特徴である時間の使い方。ただ、これは演出としては分かるんだけど、ちょっとやりすぎかなぁ……と感じました。

最後に被爆国の日本に配慮がないんじゃないかという意見。まったく見当外れです。原爆は遅かれ早かれ誰かが作ったし(日本も戦時中に理化学研究所で開発してた)、使われるまで本土決戦を叫んでた日本に落とされても仕方なかった。東京の大空襲でも降参しないんだから。原爆を落とされるのが嫌だったら、とっとと降参すればよかったというだけ。もっと歴史を学びましょう。本作は「原爆スゲーぜヒャッホー」な映画じゃないですし、大量破壊兵器を崇めてるわけでもない。むしろその反対です。