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オッペンハイマーのyuyuのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

メモ!

まずはこの映画は原爆賛美映画では全くない。めちゃくちゃ長いんだけど全然無駄なシーンがなくて、演出はノーランらしさ全開の視点でのカラー切り替え、所々に原爆の緊張感が散りばめられていて3時間が一瞬に感じられた。いつも通り時系列通りに進まなくて最後まで意味わかんないとこも多かったけどやっぱりノーラン大好き❗️でも、新鮮も十分にあった。ノーラン映画は基本的に難解だけど、登場人物の内面を重視した映画が多かった。けど今回はオッペンハイマーの内面というより、やはり事実にフォーカスが置かれてるなと感じた。以前までのノーラン作品なら、オッペンハイマーが孕む矛盾や繊細さみたいなヒューマニティをメインに持ってきてもおかしくないかなと。

映画序盤にオッペンハイマーは物理学者として抽象的なものと向き合っていると語っていた。そしてピカソのキュビズムの絵を鑑賞するシーンもあったが、抽象的なものを追求するという共通点があったとしてもピカソとオッペンハイマーは全くの別物。ピカソは自分のそのライフワークを使って戦争、暴力に反対し続けた人だよ。一緒と思うな
もちろんピカソの絵を引用したのはピカソの女性関係とかキュビズムと科学の関係とかももちろんあると思うけど。

以下、日本人としての感想✨

原爆実験のシーンのカウントダウンは息できないくらい怖くて逃げ出したくなったし、静かに描かれる爆発とは対照的に実験や日本への投下成功への歓声が大きく鳴り響いて映画館が揺れてたのがめちゃくちゃ怖かった。その嬉々とした歓声の間にも広島と長崎は阿鼻叫喚だったのに。

映画としては日本に割とリスペクトのある作りとなっていた一方で、当時のアメリカには日本は全く見えてなかったのを改めて実感した。日本は最初から蚊帳の外で、ドイツという絶対悪を制するものとして原爆は開発されたが、ヒトラーの自殺により行き場をなくしたゴールを仕方なく日本に向けただけだった。対象を見失って、投下しなくてもいいはずの原爆を「もう後戻りできない」という集団意識で踏みとどまれなくなっただけだった。手段が目的となる瞬間が怖い。投下後も日本はほぼ話題に出ず、ソ連に負けないための水爆開発へ話は移る。ずーっと蚊帳の外なのに、受けた被害はあまりにも大きい。

オッペンハイマーが日本の原爆被害の写真から目を逸らしたのも許せなかった。お前が始めた物語だろ。さらに、オッペンハイマーは原爆を落としたことに対する罪の意識を抱いていたが、その幻影に出てくるのは被爆したアメリカ人(ととれる)の女の子だった。日本人はここでも透明で、彼は日本へ罪悪感を抱いているのではなく、祖国をも傷つける兵器を作ってしまったことへの後悔だった。いつか米国に帰ってくるかもしれない兵器という認識しかないように見えた。

「東京大空襲で10万人も死んだが国民から反発がなかった」と話すシーンが怖かった。どれほど残酷なことにも慣れてしまう人間ってすごいなーと思った。 

被爆国として原爆の恐怖を教えられてきた日本人には、この映画の意味がかなり変わると思う。稀有な映画体験だった。
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