氷雨水葵

オッペンハイマーの氷雨水葵のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
2024年16本目

’’原爆の父’’と呼ばれた男の栄光と没落

◆あらすじ
第二次世界大戦中の1942年、理論物理学者のロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)は、アメリカの極秘プロジェクト’’マンハッタン計画’’に参加。

そして、1945年7月優秀な科学者たちとともに、オッペンハイマーは原子爆弾の開発に成功する。

しかし、成功に安堵する反面、投下後の惨状を知ったオッペンハイマーは苦悩し、後悔の渦にのまれてゆく―――。

◆感想
ここ最近、個人的に180分超えの映画はきついなあと思うことが多く『デューン PART2』すらまだ観てないのですが、本作に関しては日本公開決定&アカデミー賞受賞前から熱望していました。なので、重い腰を上げて公開初日に鑑賞。

最後まで観た感想としては、終幕後、ずっしりと重たい感情が襲いかかるものの、日本人にこそ観てほしい映画だと思いました。というのも、本作ではオッペンハイマーらが行った原爆開発の過程に加え、ド正面からではないものの’’あの日’’広島と長崎に投下されたという事実を突きつけられる。しかも、日本をできるだけ早く降伏させ米軍の犠牲を少なくしたい、さらには20億ドルもかけた国家プロジェクトを正当化したいなどと、自国ファーストな理由も描かれているので、ここらへんは観る人にとっては精神をえぐられるかもしれません。かくいう私も経験こそないものの、一人の日本人としては史上最悪の悲劇だったと思わずにはいられず、実験の際の凄まじい音や衝撃波、キノコ雲に涙が止まりませんでした。

ただ、本作の見どころは、あくまでオッペンハイマーの半生。1人の科学者が原子爆弾を開発したことで掴んだ栄光、しかしやがて公職追放され没落していく、そんなオッペンハイマーの悲しい伝記物語であることを知ったうえで観てほしいです。悲劇だなんだといろいろ言いましたが、オッペンハイマーの正義や苦悩、葛藤、失意など、ごちゃ混ぜに描かれた感情の数々に注目してほしいです。

にしても『インセプション』や『テネット』に負けず劣らず、クリストファー・ノーランは視聴者に一度で理解させてくれないようですね…💦まぁ、ノーラン映画で必死に字幕を追い「理解してやろう」と思うのがもう愚かなのだけど、それでもキャラクターの関係性くらいは理解したいし、時系列を確認して「そういうことね!」と納得したいやん!?とはいえ、そこも含めてノーラン映画の良いところなのだけど。私の足りない頭では半分も相関図を描き切れなかったわ。てか、大々的に名前が出ている俳優さんたち以外はノー情報で観たので、ラミ・マレックやケネス・ブラナー、ジェイソン・クラーク、デイン・デハーンらに加え、大統領役でゲイリー・オールドマン特別出演ってマジかよ…豪華キャストすぎて「あ、この人まで!」とそればっかり考えてた。

面白かった、というかノーラン監督の手腕が光ってるなと思ったのはやっぱり、いくつもの時系列が交錯して描かれているところ。オッペンハイマーがソ連のスパイ疑惑を受け聴聞会に出て、公職追放される’’オッペンハイマー事件’’と、事件の首謀者ルイス・ストローズ(演:ロバート・ダウニー・Jr)の公聴会の様子、そして主軸となるオッペンハイマーの生涯。走り出したら止まれないと言わんばかりの全編会話劇なので、カラーから白黒へ、白黒からカラーへ場面転換するたび頭をフル回転させてました(笑)こういうのは本当にノーラン監督がピカイチですね。

あと、個人的にすごいと思ったのは、オッペンハイマーと対立するのが、後に’’水爆の父’’と呼ばれるエドワード・テラーではなく、アメリカ原子力委員会の委員長ストローズだったこと。オッペンハイマーはソ連との核開発競争を危惧していて、水爆開発に否定的だったから、てっきり相対するのはテラーなのかと。いや、実際には対立したのだけど、本作では科学と政治が衝突せんといわんばかりに、ストローズにスポットが当たっていた印象でした。

こうして感想を書きながら頭の中を整理していると、もう一回観なくてもいいかなって思えてくる…。3時間は身体にも眼球にも堪える。

これから観に行く人は、肩肘張らず一本の映画として、史実として受けてめてほしいと思います。

アカデミー賞作品賞をはじめとする7部門受賞おめでとうございます!!!!!!!
そして日本公開ありがとう!!
氷雨水葵

氷雨水葵