ばふばふ

オッペンハイマーのばふばふのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

"我は死なり 世界の破壊者なり"

原爆を落とした側のアメリカ人だから観るべきだとか、唯一の被爆国である日本に住む我々だから観るべきだとかではなく、核兵器が存在する今の世界に生きる全ての人が観て、自分の頭で考えるべき作品だった。我々は皆、オッペンハイマーが変えてしまった世界に生きている。

今作は「原爆の映画」なのではなく、原爆を作り出してしまったオッペンハイマーという男性の人生と苦悩に視点をあてた映画である。
それ故、第二次世界大戦下のアメリカで、どういう目的や考え方で原爆が生み出されたのか。そしてそれがどのように使われたのか。国民はそれをどう受け止めたのかが単なる事実として描かれている。原爆を落としたことは人類最大の過ちの1つという考えは私の中では変わらないが、原爆を平和への抑止力として機能させるためには人々の目に威力を見せつける必要があったこと。原爆を落としていなかったら、果たして日本はいつまで降伏せずに戦争を続けていたのか。やり方は間違っていたかもしれないが、こういう思考の下、アメリカで原爆が英断とされているのを理解はできた。勿論、科学者の中には落とすべきではないという声が多数上がっていたこと。もはや敗戦が決まっていた日本に追い打ちをかけたと非難する声が上がっていたこともしっかりと描かれていた。

公開当時、広島や長崎の惨状の描写が無いと批判の声があったようだが、オッペンハイマーは実情を目の当たりにはしていない。その後の写真なども罪悪感により目を逸らした。そう考えると原爆による被害描写がなかったのは何らおかしいことではなかったのでは。

原爆を落とす前と落とした後で、核に対する姿勢が大きく転向したオッペンハイマー。
広島に落とした直後の演説シーンは彼の罪悪感や喪失感を見事に描き出していた圧巻のシーンだった。
作り出した張本人だからこそ、原爆は抑止力になり得ない。より強大な力を作り出すトリガーになってしまったこと。そしてこのトリガーが世界の終焉に繋がることをを理解し、その後の水爆開発には異議を唱え続けた。

決して教訓や説教といったメッセージ性の押しつけではないが、ラストの描き方などから、どちらかと言うと反核の意図が込めらた映画だと私は感じた。
日本人としてはやはり原爆を受け入れられない気持ちもあるが、作中のオッペンハイマーに感情移入してしまい、情緒がぐちゃぐちゃになるようななんとも辛い映画だった。
この映画を観たことによって今すぐ自分の生活が何か変わるとかではないかもしれないけど、世界の見え方が変わるようなそんな映画。
世界終末時計が残り90秒を指していることが理解でき、どうか秒針が進まないこと、さらに言えば時間が伸びることを切に願う。
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