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オッペンハイマーのmasayaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
彼の発明は、宇宙の真理に果敢に踏み込んだ人類の偉大な進歩であり、同時に人類が自らを滅ぼす力を手にした新世界の誕生を意味した。もたらした破滅的な結果に、倫理観とのジレンマに苦悩する科学者。科学者が苦悩することすら奪う政治の力学。渾身の大作で体が強張る180分。

繰り返すフラッシュバックや幻覚幻聴の描写が短い間隔で幾度となく差し込まれ、大勢の登場人物の討論の応酬が続くので観た後の疲労感すごい。体調万全じゃないと耐えきれないかも。視覚効果のつよつよさは流石なのだけど、このテーマとノーラン監督の作風の食い合わせはどうだったか?と思うなどした。

作中に被害者の描写がないのはそれはそう。オッペンハイマーはじめユダヤ系科学者達がナチスより先に開発することに必死になった理由や、彼が戦後見たいくつかの報道写真に何を感じていたか。描写がない分は観た人自身が想像して完成させるのがこの映画のスタンスで、正しい鑑賞方法だと理解したい。


映画を観てる最中に、ふいに以前に観た映画を思い出すことがある。この映画の場合は「太陽の子」。ロスアラモスの科学者たちの発明がもたらした破壊の先に居たのは同じ人間。劣等生物や悪魔ではなく、とはいえ純粋無垢でもない、政治的思惑や科学者の業に突き動かされ軍拡や核開発を進め、そして苦悩した、紛うことなき同じ人間。
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