Godfather

オッペンハイマーのGodfatherのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.6
昨年夏、アメリカで、いや世界中で話題になったこの映画が日本だけ公開されないかもしれないという話になったとき、一体配給会社は何を考えているのだと憤りを感じた。日本では物議を醸すテーマだからなどと意味不明な擁護をする人もいたが、物議を醸すテーマだからこそ公開すべきだろう。なにより日本に密接に関わる題材がテーマのこの作品を日本で演らずしてどこでやるのだと。
配信のみでひっそりと公開されて終わりなのではとの悲観論もあったが、本国より8ヶ月遅れでようやく日本で劇場公開されることになった。

そして待ちに待った公開日。
映像には並々ならぬこだわりを持つノーランの映画だから、おそらく福岡でもっとも高画質なT-Joy博多のドルビーシネマに仕事帰りに寄ったのである。

映画は一言でいうと・・・眠かった。
長いのはまあいいとして、登場人物がやたら多いのもまあいいとして、ひたすら会話劇が延々と続くのだ。これならむしろ小説で読んだほうがいいのでは思った。
ノーランの映画らしく本作も難解で、頭の悪い私はカラーと白黒のパートがどのような基準で使い分けられているのかもわからなかった。

それでも本作の目玉(多分)、トリニティ実験のシーンまでは寝るわけにはいかない。
かなり後半になってようやく訪れるトリニティ実験の描写は期待通りに素晴らしかった。
トリニティは人類初の核爆発という物理学史上極めて重要な出来事であるにも関わらず、鮮明な映像記録が残っていない。なのでフィクションとはいえ最高の映像技術を持つノーランがこれを実写再現するのはとても意義があることだと思っていた。
それにこれまで映画の世界で描かれてきた核爆発には、リアリティのある描写が(私の知る限り)一つもない。
その点、CGを使わず実写で描かれたトリニティ実験は、キノコ雲や爆風を劇画調に強調することもなく、後年の核実験映像とくらべると意外と小ぶりな(と感じる人が多いはず)20キロトンの原子爆弾の爆発を非常にリアルに誇張なく描いており、そのリアリティの吸引力はすさまじく、眠気が一気に吹き飛んでしまった。

その後広島への原爆投下はラジオのニュースという形で間接的に描かれるが、印象的なのはその後、オッペンハイマーが祝福を受け演説する場面だ。
雷鳴のような足音、半狂乱といえるほどに歓喜する聴衆の不気味な笑顔、そこにオーバーラップする熱線で焼けただれる聴衆・・・どこからどこまでがオッペンハイマーの心象風景なのだろう。
皮肉にも私は、この長い作品の中で「芸術的」だと言える映像表現はこのシーンだけだと感じた。

でもこれだけのために2600円も出してドルビーシネマで観た甲斐があったと思う。
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