社会のダストダス

オッペンハイマーの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.6
“我は死なり、世界の破壊者なり”

体感時間しっかりと3時間。退屈する時間は無かったものの身体は正直なもので、エンドロールが流れるころには膀胱へ尿意の連鎖反応が爆発的に広がり、あわやマンハッタン計画の再現となるところだった。

第二次世界大戦下、アメリカにおいてナチスなどの枢軸国に対抗するために立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。科学者として参加したJ・ロバート・オッペンハイマーは、世界初の原子爆弾の実験に成功する。しかし、ひと月も経たず実戦投入された原爆のもたらした惨状を知ったオッペンハイマーは、深く苦悩することになる。

原爆の父として知られる物理学者ロバート・オッペンハイマーについての伝記映画。

個人的には、クリストファー・ノーランの作品と今まであまり相性が良くないけど、今回は史実に沿った話だから、そんなに複雑なことは無いだろうと舐めて掛かったら、しっかりいつも通りのノーラン作品で悲鳴上げそうになった。とはいえ、全体としてはとても満足のいく作品になった。

今回はほぼ会話劇だから別にいいだろうとケチってIMAXにしなかったけど、中盤の実験シーンの迫力は凄かった。ノーランはCG嫌いで有名だから実物作って爆ぜたんだろうかとか気になったり、ピューちゃんのおっぱいをIMAXで観れば良かったなど、視覚面でも特筆すべきところがあり後になって少し後悔。

キャストは物凄い。キリアン・マーフィ―はノーラン作品だとよく見るけど、主演としてクレジットされるのは今回が初めて。脇を固めるのが、エミリー・ブラント、ロバート・ダウニー・Jr、マット・デイモン、フローレンス・ピューなど主役級、その他も、なんならワンシーンだけの大物俳優も多い、こんな使い方ができるのはノーランとウェス・アンダーソンくらいな気がする。

大量にいる大物キャストの中でも印象に残ったのは、主役のキリアンやダウニーはもちろんのこと、出演時間の大半を全裸で過ごしたピューちゃん、ダウニーおじさんに振り回されて段々キレ気味になるオールデン・エアエンライク、珍しく情けなくないマット・デイモンなどかな。

最初はモノクロで描かれているのは一番新しい時間軸の話で、カラーは回想の出来事だと思っていたものの、途中からどうやら違うっぽいということに気づき…深く考えるのは諦めました。時間軸で色彩を分ける『私の若草物語』方式かと思い込んでいたけど、どちらかといえば人物視点で分けてる『最後の決闘裁判』方式だったのね、それを時系列入れ替えたりするんだからアホな私には訳分からなくなるわ。

日本人としては色々思うところがある映画なのだけど、アカデミー賞たくさん獲った今になって疑問に持つのも変かもしれないけど、果たしてアメリカ人が観てこの3時間の映画は本当に面白いのかというのは少し気になった。それと同時にメジャーな映画賞にノミネートされるまでは多くの日本人が本作の存在すら知ることなく、作品評価が固まるまで議論の余地も無かったことはとても残念なこと。

3つくらいの時間軸が並行して進んでいくのは、途中から慣れてきたが時系列順で進んでいったとしても、それほど間延びする話でもなさそうだし、難しい用語が多い分シンプルにしてくれた方が良かったと思うけど、それだとノーラン監督の美学が許さないのだろうか。

日本について、被害の描写を一切映さないのは不誠実だみたいな意見はきっと多いと思うけど、予測と結果の数字でしか語られないところに戦争の冷酷さというものが現れているようにも感じた。ジャンルは全く違うけど、『アフターサン』や『パーフェクト・デイズ』みたいに、トラウマの核心にあえてフォーカスしないことで観る人の心がざわつきアクセントになる場合もある。別にそんな意図は無いかもしれないが。

ゲイリー・オールドマンがどこにいたのか分からなかったのは内緒。