カレーをたべるしばいぬ

オッペンハイマーのカレーをたべるしばいぬのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

クリストファーノーラン監督特有の長編&複雑な時系列を楽しめる映画。史実ベースのため、同監督にしてはまだ分かりやすいストーリーになっている。個人的には3時間があっと言う間に感じたし、複数回視聴したいと思った。
Filmarksを始めて以来の悪癖に、視聴中に点数変動を考えてしまうという非常に不健全なものがあるのだが、この映画はその余裕がなかった。

物理学分野の偉人達が目白押しな時代劇的要素がありつつ、オッペンハイマーが広義の共産主義を支持しており党員との関わりがあったことなど、意外な事実も少なくなかった。

【好きなシーン】
①院生時代のオッペンハイマーが病んでいるシーン。歴史的権威でも私と似た状況になるのだという自分への慰めと共に、人間は単純な生き物だという安心。

②諮問会で不倫を追求されるシーン。位置関係的な都合もあるが、妻が睨むのは夫ではなく不倫相手の幻影だ。

③トリニティ実験成功シーン。間違いなく人類滅亡への大きな一歩である暗黒の事実と、こちらも間違いなく“Eureka”としての歓喜のコントラスト。忌まわしさと美しさが共存する爆発の描写は見事だった。

④原爆被害を報告されるシーン。オッペンハイマーは決して写真をチラとも見ようとしない。目を背け続けたアメリカを揶揄しているのかもしれない。

⑤諮問会での怒涛のカットバック。単純に好きな演出がたくさんで嬉しかった。

⑥トルーマン大統領との面会シーン。自身の「した事」と「その結果」が牙を剥いてくる。

⑦アインシュタインとの池の畔での会話シーン。⑥のシーンに続いて、オッペンハイマーと周囲の人間達が選択した原子爆弾の開発という功罪を突きつけられる残酷さ。

⑧ロスアラモスでの登壇スピーチ拍手喝采シーン。白飛びやミュート、炭化した死体を踏みつけるなど演出自体は派手だが、事前の要所で当該シーンの足踏みの音が挿入されているため、ここがトラウマであり、また、葛藤に至る1つの原因・転換点であることが解るようになっている。


原爆や戦争の是非を問う短絡的な啓発作品ではなく、オッペンハイマーという歴史に名を残した一人の科学者の伝記であり、彼自身よりも寧ろ周囲の人間を詳細に描くことで本人を深く掘り下げるという、伝記としての1つの完成形。またそのような監督のドライさも伝わってきた。


高々一人を殺す青酸カリが1滴垂れる。
トリニティ実験当日の雨は何滴?

慰めも肯定も啓蒙も描かないのは、果たして逃げなのか?そうは思わなかった。
広島長崎の惨状を描かないことから非常に恣意的、自己批判的な意図を汲み取れる。

【蛇足】
ニューメキシコの撮り方が『NOPE』っぽいなと思ったら同じデザイナーだった。
ロバート・ダウニー・Jrは“卑しい靴売り”役が似合ってしまう。