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オッペンハイマーのいちのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.4
倫理観も目指すべきものも時と共に変化する。戦争に、祖国アメリカに、いいように利用されてきたオッペンハイマーの栄光と苦悩。原爆開発の鍵となるトリニティ実験の成功は、原爆で被害を受けた我々日本人からすれば最悪の出来事であるが、アメリカ人からすれば戦争を終結させうる強大な力を手に入れることになるので、大喜びしたに違いない。世界中から観られる映画として表現の仕方が難しいシーンで、あの演出はノーランの技術というか、配慮を感じた。総じて、IMAXならではの大画面と静寂のなかの爆音は堪らなかった。


先月、長崎に行った。1945年8月9日に原爆"ファットマン"が落とされた都市だ。歴史を学ぶべく原爆資料館に赴く。実際に被爆した80代のおじいさんがガイドをしてくれた。彼は言った。'原爆で母を亡くした,その後は兄弟だけの生活で苦しかった,戦争は2度と起きてはならない。'戦争の悲惨さを知っていれば、自然と誰もが思うことだが、実際に経験をした方からの言葉は重みが違う。普通に生きている'いま'がどれだけ幸せか、毎日を大切に生きてゆかねばならないと心に誓った。資料館の出口にはオッペンハイマーやグローブスをはじめとした原爆に関わった研究者たちの肖像が飾られていた。左手に煙草を蒸すオッペンハイマー。"マンハッタン計画の指導者"と記されていた。後世にわたって、"原爆の父"と呼ばれることは果たして名誉なことか。彼の境遇を理解するには、100年あっても時間は足りない。
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