おこのみやき

オッペンハイマーのおこのみやきのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
この映画をめぐって、「気分を害する」や「観なければよかった」という評価がされているのが散見される。果たして私にとってこの映画が気分を害するようなものであったかと問われれば、そんなことはないと言いたい。

原爆を作ったものに罪はあるのかという問題に対し、科学者は純粋に研究をしただけなのだから罪はないという反論が一つ考えられるだろう。しかし、この映画で示されたのは、オッペンハイマーが科学者であるだけでなく、政治家でもあったということである。劇中、ある登場人物がオッペンハイマーに「あなたは、もはや科学者というより政治家だ」という旨の言葉をかけるが、まさに彼は科学者の立場を超え、重要な安全保障を担う政治家、または軍人として君臨したのである。実際、原爆投下地を選定する会議にオッペンハイマーは出席している。ここで交わされる会話に特に「気分を害する」人がいるようだが、確かに彼らの会話は無神経で、恐ろしくあることに共感しつつも、その会話にオッペンハイマーが加わっていることこそが、彼にも幾らかの責任があることの裏付けなのである。そして、この映画の主な着眼点が、実は原爆の開発よりも、戦前から戦後にかけての彼の政治的信念にあるということも、忘れてはならない。

つまり、彼は科学を愛しそれだけをひたすら追い続けた、「純粋な科学者」というイメージではなく、政治的信念を持ち(時にはそれを持つことに抗いつつも)結局政治家としての一面を捨てることのできない「思想を持った科学者」というイメージを背負うべき人物として描かれている。彼は確かに、戦中から戦後にかけて苦悩したのだろう。しかし、トリニティ実験の成功によりプロメテウス、破壊神となった彼には、もはや神としてただ君臨する道しか許されず、簡単に反省することも逆に驕ることも許されない、孤独な道を歩む道しか残されなかったということだろう。