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オッペンハイマーのyuzameのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
オッペンハイマーと言う人物が
考えていたよりもずっと多層的だった。

この手の物語の主人公に
ありがちなタイプ、
自分の専門外の事には一切無頓着な
「〇〇バカ」みたいな人なのかと
勝手に想像してたから、
良い意味で裏切られた。

政治的な立場や、主義や思想や、
人としてどうあるべきかとか
社会とどう関わって行くかを
もの凄く考えて行動している人物だった。

だから戦後の聴聞会での彼の態度は
被害者然としたものではなかった。
自分の意思に基づいて
その時点で「最善」と思える行動した事を
訴えていた。

彼の「最善」は変化した。
冒頭でフローレンスピューに向かって
「俺は揺れていたい」と言っていた。

全てに対して鵜呑みにせず疑いを持つ、
裏を返せば、
自分の方が真理に近いと感じている
不遜な人物だという事でもあった。

彼のように、
ある分野で秀でた能力を持っていて
その評価に伴い、
権力を持つようになった人物は
「揺れる」ことは最早
許されないんだなと思った。
テラーが聴聞会で、
彼のような人物がリーダーでは困ると
証言してたし。

変化を恐れずに、
以前の自分をも
疑ったり否定したりできる事は
すごい事だけど、辛い性分だなと思った。

余談だけど、スクリーンを出てすぐ
エレベーターを待っていたら
朝の情報番組のクルーに
アンケートに答えて欲しいと
声を掛けられた。
「オッペンハイマーを理解できる」
「オッペンハイマーを理解できない」の
2択だった。
その番組の、暴力的なまでの
単純化して伝えたいって言う姿勢に
すげえなって思った。
クルーの方は恐縮しつつも、
仕事だから頑張って声掛けてる
感じだった。
エレベーターが来たから
うやむやになったけど。

私は自分で「選んで」「望んで」
日本に生まれた訳では無い。
ネガティブな感情がある訳じゃなく、
単純な事実として
私の意思は介在してないと言う事。
そんな私が「日本人である」と言う
一点のみで、
オッペンハイマーをジャッジする
権利があるとは全く思えない。
ただ、
私が「日本人」としてこの映画から
受け取る印象は
他の国の方のそれとは、恐らく
違うものであるとは思う。

エミリーブラントが演じたキティ、
凄くいい女だったな。
罪を犯したお前に
被害者ヅラする権利は無い!
立って仕事しろ!
言い方はキツイけど、これ言われたら
シャキッとするしか無いもんね。
最後の、アインシュタイン曰く
「周りが許されるための授賞式」でも
誰とも握手しないって言う。

まさにオールスターキャストだった。
ロバート・ダウニー・Jrは
受賞に値するなと感じた。
見苦しい人物を見事に演じてた。
オッペンハイマーの複雑さに対して
徹底的に単純な人だった。

個人的にグッと来たのは
ケイシーアフレックの演じた軍人。
めっちゃ怖かった〜。
ケイシーアフレックって
ゆるふわなイメージだったから
こんなに冷徹な人物もできるんだ!って
凄くびっくりした。

実験成功のシーンを見て、
子供の頃、原爆を学んだ時に知った
「ピカドン」て単語を思い出した。
まさにそういうことだった。

ラストシーンが強烈だった。
2人の会話の意味が高次元過ぎて
ちゃんと理解し切れてないから
もう一度見たい。

キリアンマーフィーのファンだから
ノーランの新作で
主役のオッペンハイマーを演じるって
ニュースが出た時から期待してた。
今回はフェロモン少な目な役だったなw

これは、完全にこじつけだけど
生来のカリスマ性があって
特別な才能ゆえに色んな人に
必要と(利用)されて、
自信満々な行動を取るのに、
自分を信じてなくて、女にモテる。
あと途切れることのない煙草!
トミーシェルビーと共通項多いなーって
勝手に思ってしまった。

追記:NHKの番組で、
広島・長崎に落とされた原爆は
7月16日の実験成功よりも前に
ロスアラモスから出荷されてたと。
そうなるとだいぶ
彼がどういう立場を
取っていたのかについて
話が違ってくる。
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