矢野竜子

オッペンハイマーの矢野竜子のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
35mmにて。
水溜りに映る波紋から始まる。
そこには波紋という結果のみが映されている。
波紋を生じさせる原因は映されていない。
宮崎駿のような矛盾性を抱え
見えない何かに導かれ見えない何かに恐れ
苦しみ続ける180分。
業を背負ってしまった人が
矛盾に引き裂かれ苦しむ様に
ポールシュレイダーが評価したのも
わかる気がした。
思えばバットマンシリーズも
業を背負ってしまった人の物語ではあった。
10秒も回っているカットがほとんどない。
というかあっただろうか?(印象が全くない)
矢継ぎ早にカットが変わる編集が象徴するように
本作は分断、分裂、ひいては妄執の
映画のように思う。
そもそもオッペンハイマー自身は
広島や長崎に原爆が投下された様子を
自身の目で見ていない。
つまりはオッペンハイマー自身は
原爆が投下された広島、長崎に
同じ時間、同じ場所にはいなかった。
ゆえに人物と時間・場所が分裂するわけだが、
そこを作品の源と捉えるのは考えすぎだろうか。
演説中に幻想を見るシーン、
詰問中に幻想を見るシーン、
淫らな幻想が突如として介入し出すシーンは
時間と場所がオッペンハイマーという人物を
起点に入り混じった特徴的なシーンで異様。
冒頭からパラレル編集でアクセル全開だが、
その後もフラッシュバック、カットバックが
多用されオッペンハイマーはもろとも
時間、場所をも映画は
それこそ破滅的に引き裂き続ける。
ゆえに本作はただの史実もの、
ドキュメントではない。
そしてだからこそ傑作となっている。