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オッペンハイマーのhatoのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
待ちに待ったノーラン最新作

時間をいじるのが大好きなノーランが史実ベースの作品をどう見せるのか気になっていたところ、しっかりやってくれた。ちなみに同じ史実ベースの作品としてダンケルクは陸海空の時間軸に分けた構造だったけれど比較的理解しやすかった記憶。そして今作、作品自体の構造が難しい。理解するまでにそれなりに時間がかかった。これはネタバレにはならないだろうから書くけれど、オッペンハイマーと、彼と敵対するストローズの2軸がカラーとモノクロで描かれている構造。(オズの魔法使いみたいにカラーとモノクロを切り替えても時間軸が1本だったらわかりやすいけどノーランはそんなことしない笑)

1点理解出来なかったのがアスペクト比の変換。池袋のIMAXで観たからノーランが撮った全てを観ているという前提で、あまりにも高頻度で切り替わるアスペクト比に何か意図があるのかと考えてしまった。例えばドランのMommyには明確なアスペクト比拡大の意図があったわけで、そういった記憶が余計な考察をしてしまうノイズとして働いてしまった。何か考察できた方、教えてください!
ちなみに日本国内でノーランの撮るIMAX画角をフルサイズで見れるのは池袋のグランドシネマサンシャインと大阪の109シネマズ大阪エキスポシティのみ。

IMAXというところに触れると、やっぱりこの画面を使いこなすという意味ではノーランの右に出る監督はいないと思う。ノーランいわく今作には一切CGがないとのことで、開始30分くらいまでの映像がとにかくすごい。オッペンハイマーを学生時代から描いて、その際の苦悩、頭の中、そして量子世界をイメージした映像が圧巻だった。もちろん原爆の爆発シーンも。すごすぎて海外の一部のアホな人間が本当に原爆を爆発させたのではとか言っているのも少し納得。IMAXの使い方について、人物の顔をアップで映すシーンが多かったことが意外かつ通常スクリーン以上の没入感を得られていると思った。これはアクションではなく人間ドラマだからそうなるのは必然なのかもしれないが。IMAXといえば戦闘シーンや壮大な風景のためと考えてしまうけれど、そんな使い方だけじゃないんだよと教えられた気分。

そして映像だけではなくて、ノーランはここぞという時に「静」の音の表現がとにかくうまい。インターステラーの宇宙での静寂のシーンが印象として強いけれど、それを思い出す感覚。「静」によって五感が研ぎ澄まされ、かつ映画館にいることを忘れるような没入感は唯一無二。

最後に触れないといけないと思うのはやはり原爆を扱うストーリーについて。「日本人として」という枕詞の感想は切り離せないと思う。まず結論としては、日本人として気分は非常に悪くなった。ただこの気分の悪さの対象は作品ではなくて、登場人物である当時の人間たちに対して。科学者ではなくて(一部含まれるが)、政治家に対して。あまりにも配慮のない発言ばかりだけれど、これは史実をベースとした作品であって、それを描いているだけという理解はしている。あまりにも傑作なので、おそらく多くの日本人が感じるであろう気分の悪さが作品に向けられないことを祈る。
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