『原爆の父』と呼ばれる科学者オッペンハイマーの半生を描いた映画。
一歩引いた客観的な視点で出来事を描くのか、内面に迫り苦悩や葛藤のドラマじっくり描くのか？ノーラン監督が選択したのはまるでサスペンス映画のように時系列を大胆に入れ替えて終局までのテンションをどんどん高めていくような構成。
そのお陰で３時間という長丁場とは思えないハイテンポで進んでいく。
それ故に時代背景をある程度知っておかないと理解が難しい箇所があるので予習するなり後で調べたりする必要があるかも。
原爆について。
莫大な人員と費用を費やして遂に実験に成功して関係者全員が歓喜してどんちゃん騒ぎするシーンはこの後広島と長崎にその成果物が落とされることを考えるとやっぱり複雑な気持ちになった。
実験のシーンもやはりどんどん盛り上がっていく演出だったので猶更。
一応オッペンハイマーが原爆を使った事に対して後悔しているような幻覚シーンや、『京都は新婚旅行で行った場所だから対象から外す』みたいなノリで投下場所を相談する政府の軽薄さが垣間見えるシーンを入れてフォロー的な事はやっているが、意地でも広島・長崎で起きた事を映像に映さないのはちょっと不誠実に感じてしまった。
映画自体は原爆を落とした出来事よりもその後、スパイ疑惑を向けられて苦しむオッペンハイマーの密室劇が中心になるとはいえ。
伝記映画とは思えないエキサイティングな作り方がされた野心作であることには間違いない、でも彼らが成してしまったことを考えると「シーツはしまわない」方が良かったのではと思ってしまう。
