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オッペンハイマーのryoのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

1つの原子爆弾による核分裂が連鎖し続け、世界を破壊する可能性。
理論上(計算上)だけでは、実際に爆発させるまでその可能性は【ニアゼロ】でしかない。

この【ニアゼロ】、世界を破壊する核分裂の連鎖範囲の理論計算についての付随するアインシュタインとの会話が、
ミクロな理論追求のカラーパートの核分裂(FISSION、原子爆弾開発)と、
計算不可能で非合理的で人間的なモノクロパートの核融合(FUSION、水素爆弾抑制)を繋ぐ核として、映画の構成が完璧過ぎるほど緻密に作られていると驚愕した。

また、その【ニアゼロ】が示したもの、
美しい完璧なミクロな世界での計算・理論と、非合理的で独善的な人間という生き物のドロっとしたモノの間にある矛盾。
この理論と実証、ミクロとマクロ、自然と人間等の間で揺れ動く矛盾を持った人間や世界の曖昧さを深い視点で感じる上でも、【ニアゼロ】というワードが核になり、自分の中ではこの映画に対する深みがグンと加わった。

こんな具体的で根深い事実としてのこの題材をこんなに理性的且つ人間的に、世界の本質的なものを描き、表現、表象してしまう凄さ。


またIMAX体験としての映像、音響の映画としてのエンタメ感もあるのは、映画として完璧過ぎる。
トリニティ実験のシーンの映像、音響はとにかくずば抜けて凄かった。
純粋に宇宙の神秘に触れるエネルギーの放出をただただ感じる映像。
ただ、その感覚からやや遅れた思考として、コントロールできない要素をふんだんに持った人間が、これを扱う恐ろしさ、原爆の被害を思うシーン。
そして、プロメテウスを引用したように、
コントロール不可能な人類に、とてつもないエネルギーを手渡した恐ろしさにオッペンハイマーが囚われている演説の映像表現、背景や音が変調していく様がとても印象的。


また冒頭の表現もとても印象的。
ケンブリッジ時代のオッペンハイマーがうなされる、世界や宇宙の分からなさ。我々に見えるマクロな世界の動きを構成する渦巻き、めちゃくちゃに動く、見えないミクロな世界。
そして、そこから理論の人となり、
理論を通じて、見えないミクロな世界の構造を整理していく。
その様をミクロな量子世界の映像で表現するその演出もとても素晴らしかった。


オッペンハイマーという、矛盾に溢れる人物像。オッペンハイマーを取り巻く科学、物理の理論の世界と、矛盾に溢れる科学者、政治家、軍人。
いい意味で冷たく理性的で、それにも関わらずドロっとした人間的な要素を持った矛盾溢れる人間ドラマ。
世界の本質を唯一無二な構成と映像表現で描く素晴らしい映画で、馬鹿らしい背景で日本公開されない可能性があった事に驚く。本当に公開してくれて良かったなと心から思う。
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