人類の"叡智の炎"
それは神より賜った生命を愚弄する
暴虐の一撃であった。
"大気に引火するかもしれない"
全世界の生物を悉く滅ぼす可能性があるにも関わらず彼らはやった。
結果、大気ではなく人間の悪意に引火した。
叡智の炎は人間の傲慢さの象徴として今も世界を脅かしている。
全世界の生命を人質に取って。
あの日以前にはもう戻れない。
我々はあの日以後の世界を生きていく。
底知れぬ悪意を、振り切れぬ猜疑心を、
正義のための抑止力とのたまう、魂を焼き尽くす死の世界を。
"原爆の恐ろしさ"という点では、日本人にとっては十二分に伝わり、アメリカ人にとってはいまいちピンとこないままのような気がするが、今作の凄さは原爆を落としたアメリカと被爆した日本の立場をフラットに描いていること。戦争モノは作り手がどの立場の人間かで無意識であれどちらかの肩を持ってしまいがちだが、国ではなくオッペンハイマー博士個人にどこまでもフォーカスすることで、国同士のどっちが悪い云々を可能な限り排除して、原爆という"この世界には早すぎた"兵器を作ってしまったことへの苦悩、そして原爆後の世界を生きる私たちがこれから考えなくてはならないことをハッキリと明示している。
IMAXカメラで撮られたのだから、もちろんIMAXで。というのはそうなのだが、唯一の原爆被爆国の国民として、もうどのスクリーンでもいいからとにかく観て考えてほしい。
被爆者が遂に現世に居なくなった時、あの惨禍を、あの痛みを忘れた人間が再び滅びの火を使わぬように。
封切日にIMAXにて。
