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オッペンハイマーのRickのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2
 今いる世界は、1945年7月16日を通ってきた世界だ。“原爆の父”ロバート・オッペンハイマー率いる専門家集団がロスアラモスでトリニティ実験を成功させたその日から、核爆弾が存在する世界になってしまった。「両極端な時代」の20世紀の後半は、核とどう向き合うのかということが常に問われ続け、今なお一向に解決の兆しは見えない。そんな時代に変えてしまった1人の男の映画と聞いて、どんなものを想像するだろうか。悪魔的な存在として描くのか、はたまた「第二次大戦を終わらせた英雄」として描くのか、気にする向きも多いだろう。ただ今作は伝記映画とも少し異なる。科学技術によって火を神々の世界から盗み出して人類に与え、その罪ゆえに生涯に渡り責苦を受けることになる存在として描かれる。いわば『オッペンハイマー、あるいは現代のプロメテウス』なのだ。
 科学と政治と思想は切っても切り離せない。技術革新さえも、戦と幾億もの屍と常に背中合わせである。無論、それを是とすることはできない。たとえ技術が進歩したとて、それが人殺しのツールとなるのであれば何の意味もない。オッペンハイマーを巡る物語は、その選択を間違い続ける人類の歴史のほんの一部でしかない。今後何があっても間違わないために、科学者をはじめ我々の罪を刻印しておかねばならない。
 やりたいこともわかるし、その心意気も買うが、いかんせん語り口がさほど上手くないクリストファー・ノーラン監督の良いところも悪いところもしっかりと出ている今作。ある程度、映像やダイアログで説明が必要なところさえも、ほとんど描かないため普通に飲み込みづらい。科学史だけで無く、アメリカ現代史も頭に入れておかないと、振り落とされること必至。
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