藍紺

オッペンハイマーの藍紺のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
オッペンハイマーの心理描写を執拗に描いた3時間。核反応の映像や音が凄まじくてそれだけで恐怖を覚えた。理論物理学が得意で実験は不得手なオッペンハイマーって後の悲劇を考えると示唆的。新しい大発見の喜びもつかぬ間、軍事力に取り込まれて自らの手を離れ、何十万人もの市民を死に至らしめる殺人兵器となり、取り返しのつかない惨劇となって帰ってくる絶望。

『世界はこの日を忘れない』とオッピーは言っていたが、本当に世界中の人々が原爆の悲惨さを忘れていなかったら(知っていたら)、核兵器はこんなに作られてはいないのだろう。理論と現実は違う。核の抑止力を信じたオッペンハイマーだったが、現実は彼の予想を簡単に裏切っていく。一部の愚かな人類が核を保有することの恐ろしさを改めて思う。今、この時だって世界が終わる可能性はゼロではない。ニアゼロの上に成り立っている不安定な世界に生きていることを再確認するとともに、ノーランの反戦メッセージを強く感じる作品だった。

演者も言うまでもなく見事。キリアン・マーフィーはとても魅力的な人だからオッペンハイマーを好意的に観てしまうのではと思っていたがそんなことは全くなくて、善悪では言い表せない人間の複雑さを客観的に描いていたノーランの手腕のなせる技だったのかなと思う。
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