シモン

オッペンハイマーのシモンのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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日本の大手配給会社勢がこの映画を取り扱えなかったのも納得がいく…

オッペンハイマーは一人の愛国者として、責務を全うしようとしたんだろうね。
最終的には原爆を落としてしまったことに彼自身後悔して人間愛に気づくけれど、もうその時には手が血塗られて、もはや人間としての感情をほとんど失いかけている。自分を否定することでやっとのこと正気を保てているけれど、その葛藤やジレンマはひどく残酷だし想像を絶する。

同僚から言われた「あなたはもう科学者なんかではない。ただの政治家だ」というセリフは、まさにオッペンハイマーがたどってしまった過ちの一つを象徴していて、それは同時に当時のアメリカにおいて思想闘争や軍事の影響力がいかに国全体を席巻していたかを物語っている。

アメリカは真珠湾攻撃の報復として日本に原爆を落としたと主張するけれど、この映画を見ている限りでは開発してしまった原爆を投下するきっかけが必要だったわけで、日本は原爆が落とされる運命にあったと思うと、なお一層アメリカズファーストのエゴイズム思想がこわくなった。今でもその思想は続いているという…


ノーランの初めての伝記映画にしては、ソーシャルネットワーク、マンク、ウルフオブウォールストリート、ハウスオブグッチ、ファーストマンなどに並ぶとても洗練された映画だった。なによりあれだけの情報量を一つの映画にまとめたのはすごすぎる。。
“緊迫感のあるノーラン節×人類史上最悪の兵器を生んだ男”の掛け算で傑作が生まれないわけがないよね。
多少ノーラン特有のカッコツケのセリフやショットが入ってたのは置いといて、所々で出てくる核分裂のイメージシーンとか爆発シーンとかは度肝抜かれた。
ただ、「ダークナイト」によるアメリカでの犯罪勃発しかり、監督自身が迫力を求めて事実をスリリングに描いたシーンが、ある一部の人(特にエンタメとして映画を見るようなアメリカ人)にはそれが良かったことと受け取られてしまう現実があることはノーラン映画のシビアな部分ではある。

3時間という長丁場の映画と言いつつ、脚色されている部分は多いと思うから、いつかちゃんと原作の方も読まねば、、
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