マクガフィン

オッペンハイマーのマクガフィンのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
情報過多の会話劇だが、核兵器開発競争の時代背景・大義・使命を丁寧に描き、核開発競争と核兵器開発のプロセスを重層的に、〈国家と国民〉・〈政治と科学〉・〈加害と被害〉などの様々な対称性を描くことが巧みに。
原爆であろうとプロセスに美しさを見出す職人気質な変人だが、手元を離れたら人間に制御できるか分からないこと、核を完成させてより無数に妄想が膨らむこと、更なる核開発競争が続くこと、核への倫理や矛盾などを明確に理解して苦悩する模様が何とも言えない。只、核実験が成功した時の表情は、成功への安堵や近未来の暗示だけでなく、国家プロジェクトを達成したことや火力の高さによる高揚感もあったのでは?

結局は、オッペンハイマーが原爆を開発できなかったら、他の誰かが開発する筈だし、どこかに必ず原爆投下されただろう。深淵に触れたが、深淵の代償を本当に理解できる人は身近にいなく、偉大な先達しか理解できない絶望的な孤独と無常さが何とも言えない。