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オッペンハイマーのVisorRobotのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.7
TOHOシネマズ仙台で見た。IMAX。レイトショー。やや飲酒。

眠くなってしまうのかなあと予想していたが眠くならず。ノーランのテンポ感がその時の俺にあっていたのかもしれないが、それだけで4.7点だった。

予習はしていた。宇野惟正のMovieDriverとはてなブックマークでバズっていた予習記事。

https://note.com/dj_gandhi/n/ncf406716af1f

ジーン・タトロックの立ち位置とかシュヴァリエ事件についてとか、ざっくりとでも知っていてよかったぜ~と思った。知らなかったらわけわかんなかったと思う。知っていても、公聴会の意味が、後半になるまでわからなかった。

本作は一言でいえば「ヒーロー映画」なのだと感じた。ザックスナイダーの『ウォッチメン』を見たときに見ているときの感覚が近い。(というか『ウォッチメン』が現実のメタファーとしてのヒーロー映画なんだろうけど)

文系・理系ともに思考力で卓越した総合力型の天才オッペンハイマーは、理論物理ヒーロー。仙台ヒーローのアインシュタインはすでに隠居気味だが、マスターヨーダのように、すべてを見通す眼を持つ。ノーベル賞もちの超人ヒーローがオッペンハイマーの下へ集結!エドワード・テラーみたいな天才過ぎて生意気な曲者もいるよ。しかし、オッペンハイマーにはその尊大な態度、若き過ちから陰謀の手が迫る……!

だから、この映画を見てむかつく人がいるとすれば、その根本には「原爆被害がオミットされている」とか「新婚旅行で訪れた美しき京都は破壊したくない」とか表層上の問題以上に、やっぱり「原爆を開発し第二次大戦を終わらせた()アメリカとその科学者を苦悩のヒーローとして描いているその態度」自体に引っかかっているのではないかと思った。

……俺はどうかというと、全然気にならなかった。家族とか親戚の被爆体験を聞いたことがなく、もちろん学校の授業や広島への修学旅行や『はだしのゲン』『この世界の片隅に』などの作品でその中身は知ってはいるが、88年前の悲劇に実感を持って憤ることができるほどの体験と共感力を持ち合わせていない。
日本で生まれて、日本に住んでおり、日本語話者だが、日本がなくなってもまあ、最悪生きてけると思っている、somewhereで戦争を知らないリベラルの子供たち(のひとり)である。

なので、世界人として、ヒーローオッペンハイマーの苦悩に「わかるよ」と思い、世界に核は放たれてしまった……というナルシズム込みの諦念に『ダークナイト』見終わった直後みたいな感慨を抱いたわけである。

そもそも実験の時点で大気に引火して地球自体が終わる可能性をオッペンハイマーらは覚悟していたわけで、その後いくら人間がこれだけ苦しい目にあって死んだという映像を見せられても、理屈でいえば「すでに覚悟完了してますし……」となるのではないか。もちろん、映像のインパクトはすさまじいとはいえ。。。(ていうか黒い雨とか放射線障害についての予測は開発時点でどの程度立っていたのかな。かなりそのあたりの予測もついていたように思うけど)

たぶん欧米の人が映画を見に行った感想も、これの「影が地面に焼け付いてしまった人」とかの映像が浮かばないバージョンではないか。そんな俺だが、翻って『バーベンハイマー』はやっぱ不謹慎だった気がする。ただのミームだとはわかるけど、そこで自重するような慎重さを見せろよ。
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