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オッペンハイマーのyadokariのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5
原爆映画ということで興味を持ったが、映画はオッペンハイマーという科学者が国のために原爆を完成させたが、そのあとの水爆実験には原爆以上の破壊兵器なので関わらなかった。それで過去にオッペンハイマーに遺恨のある科学者がソ連のスパイだと噂を立てて、赤狩りの公聴会が開かられるのだった。映画は原爆をおとしたことよりも、赤狩りの公聴会がメインになっているような、戦争の英雄から一転してソ連のスパイという汚名を着せられるオッペンハイマーという一人の科学者のドラマとなっている。

その対照的な人物としてアインシュタインがいるのだが、彼は国家主義であることよりも個人であることを重視したのだが、オッペンハイマーは愛国心がキリストのような殉教者の道を選ぶような、そこに人間の弱さがあり(愛人がいた)、ゼウスから火を盗んだプロメテウスに喩えられたり科学者としては優秀なんだろうけど、一途なところがある男の悲劇として描かれていた。

原爆のシーンがはしゃぎすぎるとか日本人がみればそう思うかもしれないが、それも愛国的に描かれているので監督がそうだったというよりは当時の世論の雰囲気だったのだろう。それはオッペンハイマーが若いときにはスペイン市民戦争があり、妻も共産党員として関わっていたりしたのは、オーウェルやヘミングウェイという作家も関わっていたのでそういう世論があったのだ。学生運動にちょこっと関わった人が、後になってアカのレッテルを張られて貶められるということがアメリカであったという映画なのだと思った。原爆については物足りないところもあるかもしれないが、オッペンハイマーに取っては人生の一部でしかないことだったのだろうと。そんな原爆制作にかかわった科学者の悲劇という映画なのである。

監督もクリストファー・ノーランだから大河ドラマ的に3時間も長さを感じさせないところもあったが、赤狩りの公聴会のシーンが日本人には馴染にくいのかな。それは原爆よりもアメリカ人の関心を引くということなのは、ハリウッドでもそういうことがあったので、そこをけっこう綿密に描いていると思った。

役者もオッペンハイマーを始め、妻役のエミリー・ブラントやアカデミー助演男優賞の人はわからなかったが、愛人役のフローレンス・ピューとかいつもながらに楽しませてくれる役者揃いなのも注目作か。
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