ゆず塩

オッペンハイマーのゆず塩のネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【感想】
正直な所、話がよく分からない。
核爆弾を作るまでの過程の苦悩とかは何となくわかったけれど。戦後、オッペンハイマーと対立していたストローズ周りが本当によく分からず。雰囲気でストローズが悪い奴だなぁって認識していた感じで。オッペンハイマーが何を目的に詰問されてて、ストローズは何の裁判もどきをしてたのか……見終わった後も理解していない。オッペンハイマーの人生を戦前から戦後まで、予習してから見るべきだったと感じました。

わからないことについて考える。
シーンごとで、誰が何についてしゃべっているのか結構よく分からなかった。詳しい人に「今何の話してるの?」って聞きたくなる。時系列も行ったり来たりしてるし、オッペンハイマーが取り組んでいることやその時の目的も違うし。自分の頭の悪さもあるだろうけれど……。
脚本としてどうなんだろう。説明しなくて良いのかなぁ。アカデミー賞も取ってるし、いいのかなぁ。などと、モヤモヤ考えてしまったり。
もうちょっとわかりやすくして欲しい。オッペンハイマーが今何をしようとしているのか。ピンチならどのようにピンチで、どんな悪い目にあう可能性があるのか。どうしたら、オッペンハイマーにとって望ましい状況になるのか。そこら辺わかりやすいと助かる……。それをやってるけど、自分が見落としているだけかもしれないが。

ただ、この映画は史実ですしね。後でも先でも、分からなかったところは視聴者に調べてもらうことも出来るわけで。あえて「今こんな状況です」、ってのを入れていないだけかもしれない。オッペンハイマー達の生活を切り取ってきたような、そうした意識が強いのかも? 知らないけど。

でも、わかりやすい所はわかりやすかった。
・毒リンゴのシーン
・原爆実験の前に「もし失敗したら……」って話しているシーン。
・原爆を日本に落とすかどうか検討しているシーン
・原爆を落下させた後のオッペンハイマーの演説と拍手喝采の人々
とかとか。分かりやすかったり、胸を打たれる所は確かにあって。

ナチスに対抗することを目的にしていたのに、ナチスが降伏して、そのあと日本に落とすことになる流れは、最悪におもしろい。日本が当てつけに原爆を落とされたみたいで。実際はどうか知らないけど、不条理な感じが最悪最低で最高の脚本だなぁって。

広島長崎の原爆シーンが無いのに、オッペンハイマーが衝撃を受けたであろうことが伝わってきて心震わされた。特に演説と拍手喝采のシーンは、たくさんの人々が死んでいることに拍手喝采しているようで泣けてきてしまってしょうがなかった。これは自分が日本人だから感じた事なのか……。
海外の方々は、あの拍手喝采が異常な風景と認識しているのか、どうなんだろう?

でもあの拍手喝采のシーンは本当に凄かったと思う。
戦争で実際にあったようなグロテスクな映像はほとんどないのに、聴衆とオッペンハイマーの認識の食い違いを音と光で演出して、グロテスクな感情のシーンとして昇華したのは本当に、本当に感動した……。映画ってこうした見せ方も出来るんですね。
もちろん史実のメリットである、世界の行く末を観客が知っている、ってのを効果的に活用しているんだけど。

カラーとモノクロの使い方も興味深かったですね。
カラーは、オッペンハイマー視点。モノクロは、ストローズ視点。として見てたけどあってるかな?
ベタな演出だと、過去がモノクロで未来がカラー、っていう使い方でしょうが、そうじゃないのが目新しいなー、と。

セリフもちょいちょいカッコいいんだよな。「我は死なり、世界の破壊者なり」とか印象的。中二病っぽい。
ラストのアインシュタインとの会話と次のシーンとか、皮肉が効いてるし。
……普通のシーンって言うか、分かりやすいシーンは分かりやすいんですよね。物語は分かりづらい。

核爆弾が、空気に引火して世界を焼き尽くすという可能性も考えられた、ってのは知らなかった。実験する前はそうした心配もされるよね……。というか、最新の核爆弾が爆発させられたらそうなるかもしれないって少し思ったり。

フローレンス・ピューさんは、ヒステリックだったり怒りっぽい役をやらせるとやっぱり怖いなぁ……。人として尖っている印象ちょっとあるのだけどね。あと裸体を見せているせいか、印象が強い。脱げばいいってもんじゃないんだけど、絵的なインパクトが強いよ。

……よくわかんなかったから、ついていけなくて退屈に感じた所もあったけど、色々面白かったかな。
少しアメリカのことが嫌いになりそうになるけど、自己批判が出来ていると考えれば立派なんだろうな。「自分を最低と分かっている人間は、最低ではない。」
広島長崎の映像はないけど、原子爆弾に賛否両論な映画だと思うので日本人が見る価値は十分にあるんじゃないのかな。

時間が行ったり来たりするのは、飽きさせないためではなかろうか?
ただでさえ動きが少ないのに、原爆作りの後は本当に絵になるシーンがない。だから、戦前と戦後を並行して進めたのではなかろうかと勝手に予想しています。
時間いじりをしていたから、オッペンハイマーの人生を見たって気もしないんだよな。でもまぁ、「オッペンハイマーが、世界を破壊する兵器を生むまでの挑戦と、生んだ後の苦悩と苦労についての物語」だものな。

最後にネタっぽいですが……
オッペンハイマーが拍手喝采を浴びている所で思ったこと。「貴様!人が死んだんだぞ!いっぱい人が死んだんだぞ!(『Zガンダム』カミーユ・ビダン)」というセリフが沸き上がってきた。ネタっぽいけど、本当にそう言いたくなってしまって……。富野監督凄いなぁ(関係ない)。
ゆず塩

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