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オッペンハイマーのsyuheiのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
2024年のクリストファー・ノーラン監督作品。MOVIX京都のドルビーシネマで鑑賞。

ナチスに先んじて核爆弾を開発するためアメリカはマンハッタン計画をたちあげ、理論物理学者のオッペンハイマーをそのリーダーに据える。大戦を枢軸国の勝利に導いた英雄のはずの彼は、しかし戦後一転して赤狩りの標的に。原爆の父と呼ばれた男の栄光と挫折、欲望と懊悩を伝記的に振り返る。

赤狩りの聴聞会(1954年)を中心にオッペンハイマーが自らの半生と原爆開発のプロセスを中心に語り、計画の黒幕である原子力委員会委員長ストローズのオッペンハイマー任命責任をめぐる公聴会(1959年)の証言が複雑な時系列順序でそれに絡みつく。前者はカラー、後者はモノクロで一応は区別されている。

量子力学が勃興した1900年代前半、ボーアと出会ったオッペンハイマーが実験物理から理論物理に方向転換し、プリンストン高等研究所所長に任命されるあたりまでは面白く観た。スピード感のある語り口で科学史のスーパースターたちが続々と登場し、歴史が急速に動いている様子が伝わってきた。

本作では音響がかなり重要でIMAXとは言わずともドルビーシネマで観たほうがいいと思う。耳をつんざく轟音に何度か文字どおり身体が震えた。そのうちの1つは言うまでもなくトリニティ実験のシーンで、それまでに原爆がどう製造され爆発するかが詳細に描かれているのでいよいよかという緊迫感があった。

好意的に評価できるのはこれくらいであとはかなりポンコツだ。まずこの内容で3時間はどう考えても長い。特にストローズのパートは無駄に尺があってさらに不必要に時系列をわかりにくくしている。ここ切ったら120分くらいになったやろ。「よーし難しい映画つくるぞー」という思惑が透けて見えるよう。

原爆による大量殺人へのオッペンハイマーの懊悩というシーンでは作り手の覚悟不足も浮き彫りに。炸裂した原爆の下にどのような地獄が人為的に現出したのか、そこをハッキリ見せないから彼が何にそんなに苦しんでいたのかも不明瞭だし、その後の"悪名は無名に勝る"的な振る舞いとも整合していない。

ラスト、ある人物がオッペンハイマーにかける「他者が君を十分に罰してから賞を与えるのは自分たちが許されるため」という言葉は、本作が今年のオスカーで主要部門に輝いた事実とあわせて考えると非常にアイロニカルだ。それは、本作がクオリティなりに果たした歴史的役割への評価だったのかもしれん。

今回、俺がメンターを務める自主ゼミに参加してくれている学生4人と共に劇場に足を運んだわけだが、彼・彼女らにとって3時間の映画鑑賞は生まれて初めての体験だったという。早送りも一時停止もできない時間芸術としての映画をがっつり鑑賞する機会を若い世代に提供してくれたという点で星0.5オマケ。

https://x.com/syuhei/status/1775535826170249504?s=20
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