ミミクリンクス

オッペンハイマーのミミクリンクスのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

自分の中にある矛盾に気づかせてくれる作品。映画の持つ爆発力に圧倒されつつ、後には解決されないモヤモヤが残り続ける。
もしかしたらこのザワザワは、日本人しか持ち得ないものなのかと思うと、(時間がかかったとは言え)配給してくれた映画会社には感謝しかない。

この映画は私に相対する感情を喚起させる。
一つは、俳優・登場人物による画面の豪華さ。劇中の科学者はどれもノーベル賞を当たり前の様にとるビックネームで(ファインマンに殆どセリフすら与えないレベル)、理学徒の端くれとしてはヒーロー映画に似たワクワクを感じる。特に彼らについて詳しくなかったとしても、科学界の立ち位置に相応なキャリアを持つ俳優を配してくれたのがとても良かった。豪華なキャスト=科学者が、時に反目しながら一つの目標、正義のために動く。ここらへんは列伝モノとして、純粋な映画の面白さがある。

一方で、唯一の被爆国である日本人として、彼らの行為に憎しみに似た感情が湧いてくるのも否定できない。天才達が3年かけて作った成果が、日本に落とされる爆弾であると事実。トリニティ実験に感じる興奮とその矛先がこっちを向く恐怖。オッペンハイマーには罪悪感があってほしい、もっと苦しんで相応の報いを受けてほしいというドス黒いが自分の根底にあることに気がついてしまう。

そして、この映画はその苛立ちの捌け口を安易に提供してはくれない。ラストでアインシュタインが語ったように、仮初の贖罪があったとしても、それは他の人(彼に対する最終的な結論が欲しい我々)のためのものであり、オッペンハイマー本人のものではない。我々も、原爆とそれを作った彼への感情を蓋に入れて、どこかにしまっておかせてはくれないし、おいてはいけない。ある意味で、我々はプロメテウスであり、オッペンハイマーでもある。