らんら

オッペンハイマーのらんらのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

日本で公開してくれてよかった。
この映画は前触れだけだと日本人が忌避する内容だと思われがちですが、
実際観てみると、そんなことはないです。
辛くなるシーンはありますが。

1人の科学者の内面を描いた作品なので
「原爆反対」などといった強い社会的メッセージがあるというよりも、
この世に科学の進歩と世界破壊への切符を同時にもたらしてしまった男の罪と罰を中心に描いています。

作中でオッペンハイマーはプロメテウスに例えられていましたが、まさにプロメテウスの神話を原爆の父に置き換えたような作品。

世界の在り方を変えてしまう発明。
オッペンハイマーには確かに愛国心があったのだと思いますが、それ以上に物理学者としての好奇心があったのだと思います。
本来人間の手出しすべきではない領域に、科学者の本能と欲に従ったことで手を出してしまったオッペンハイマー。

グローヴスから「君を抜擢した判断は賢明だった」みたいな言葉を投げかけられていましたが、これはある意味皮肉的な感じがします。
アインシュタインは天才物理学者ですが、科学の前に倫理と道徳を選ぶ人です。
しかしオッペンハイマーは違います。
科学者として、倫理や道徳を無視してでも、とことん追求しないと気が済まない。それは彼の強みであり弱みです。
なので原爆開発にあたり、グローヴスの判断は確かに間違ってなかったのでしょう。

そして彼のもう一つの弱味は、理論物理学者であるということ。
作中序盤でオッペンハイマーは実験が苦手だと評されていましたが、実際彼は、原爆が投下された後の「結果」について、「その後」についての見通しが甘かった。
数式の中では人が死にませんから、現実世界の「結果」に鈍感だったのかもしれません。

その結果を目にして初めて、彼は自分の発明の責任を実感したのでしょう。

そのあたりを第三者から詰められているシーンは観ていて中々辛かったです。
確かに、彼は原爆を作っただけで、落とした訳では無い。彼が作らなくてもきっと誰かが作ったし、それはナチスだったかもしれない。だからといってオッペンハイマーに責任が無いかと言われればそれも違う。

この葛藤がとても上手く描かれていて、観ている側もかなり考えさせられます。観終わったあと頭痛くなりました。

普通のスクリーンで観ましたが、音と映像の迫力が凄まじく終始緊迫感がある。
画作りもノーラン監督らしくかっこいい。

トリニティ実験のシーンはその緊張が最高潮に達し、かなり心拍数が上がりました。

原爆投下成功後の歓声や、靴を鳴らす音は狂気的にすら見え、凄く怖かった。
こういった演出からは、ノーラン監督の原爆に対する考えが現れている気がします。

そしてラストのオッペンハイマーの台詞は、
これまで科学の進歩に貢献してきた科学者達を全員「プロメテウス」、即ち罪人にしてしまうような言葉だと感じました

アインシュタインには酷な言葉だったはず。オッペンハイマーの言った事はあながち間違いではないのです。

何故ならアインシュタインの特殊相対性理論がなければ後々原爆は作られなかったから。

どれだけ純粋に科学の進歩を目指しても、その発明がいずれ兵器として利用される。
科学者の背負わされる十字架は存外大きいのだと突きつけられて物語は終わりました。


鑑賞前は中立の立場で、俯瞰して観ようと決めていたのですが、トリニティ実験成功後のシーンで思わず涙が流れました。
無意識でしたが、やはり我ながら日本人として悲しい気持ちがあったんだと思います。

科学の進歩を前にして、倫理や道徳は無力でありその進歩は止められないのかもしれない
らんら

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