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オッペンハイマーのvioletのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
凄まじい映像体験だった。
オッペンハイマーが感じていた罪悪感や重圧、不安といったあらゆるネガティブな感情が、地響きがするほどの爆音によって表現される。迫り来る音に支配され、激しく頭を殴打されているような感覚を味わった。

トリニティ実験での閃光と爆風がフラッシュバックする演出は、本作に対するノーランの気概を完璧に反映していたと感じる。テーマに関しては、"広島長崎への原爆投下"よりも、"原爆が誕生した経緯と投下後の核の取り扱い"に焦点を当てている印象だった。

やはりノーラン。時系列が複雑で話を追いづらかったり、人間関係の描き方が淡白だったり、色々思うところはあったけど、ここ最近で一番パワーを感じた作品だということは間違いないです。

↓以下ひとりごと

日本人はみな原爆の被害の大きさを知っているわけだけど、それは私たちが被爆国の国民であるからに過ぎず、欧米では原爆に関することは詳しく教育されない。アメリカでは原爆は"戦争を終わらせたもの"として肯定的に捉える人々も未だ存在しているし、50代のアメリカ人の半数は「日本に原爆を落としたことは正しかった」と答えていたりもする。

自国が被害者となった歴史は教えこまれる一方で、自国にとって都合の悪い歴史は甘く教えられることは、どうしても仕方のないことなのだろうか… 被害ばかりにフォーカスし、加害を見過ごす教育には、高校生の頃から個人的にずっと不信感を募らせてきた。戦争史は本当に複雑なもの。事実としてはただ1つなのに、伝え方によって如何様にも姿を変えることができるから恐ろしい。原爆はその一例だと思う。客観的でフラットな歴史教育って、きっとどこの国でもなされてないんだろうな。

原爆の被害が軽視されている風潮は無知が生む問題だから、モラルのなさを糾弾するのはお門違いだと思う。皮膚が焼け爛れた被爆者の写真を見たことない人なんてたくさんいて、そういう人たちは原爆の脅威を知らなくて。日本人にとっての常識って実は世界には全く浸透してないんですよね。世界には原爆に対して無知である人が信じられないほど多く存在するということを、あのミームの一件で初めて気付いた。あの異様な現象には、悲しみや嫌悪感よりも、ただただ驚きの気持ちが勝る。原爆の認識ってこんな甘かったんだなぁと。

しかし自分がもし日本人じゃなければ、原爆について何も知らなかったかもしれない。全知全能の人間なんて存在しないからこそ、少なくとも人はみな自分がいかに無知であるかを常に自覚しておくべきなんだと思う。無知である事柄について語るのは、極めて危険な行為だということを胸に留めて生きたいし、自分の無知を減らすために学び続ける人間でありたい。


なんだか映画の趣旨からズレた感想になってしまったけど、私が今感じていることはこれです。
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