森本

オッペンハイマーの森本のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.6

音響はまたもルドウィグゴランソン。TENETを見まくって聞きすぎたせいか、冒頭からあ!!もしかして!!となった。良すぎる。

1度目は35mmフィルムで初めて鑑賞した。
フィルム故の一コマ一コマについたキズや劣化、フィルムが実際に回っていると分かる白の点滅がすごく良かった。現代に生きるとみれなくなっていくようなオールドスクールなシステムを、最新の映画で堪能する。不思議な体験だった。

グランドシネマサンシャイン池袋で通常4KとIMAXレーザーGTをどちらも鑑賞したが、どちらも観てよかったと思う。日本に2館しかないフルサイズIMAXレーザーGTを視聴できるだけあって、いかにありがたい設備なのかよくわかった。
IMAXカメラで撮影しているシーンに関してはアスペクト比がほぼ1:1ぐらいの四角になるし、スクリーンがデカすぎて視界のほぼ全てがスクリーンになっている。クリストファーノーラン作品は映像体験としての映画でもあると思うので、没入感は他の映画館では味わうことが出来ないと思う。



この映画は題名の通り、ロバートオッペンハイマーの人生の映画である。そして彼を批判するように、黒い馬に乗り、黒いスーツ、黒い帽子を纏い、ヒトラーが自殺しナチスドイツに落とすための原子爆弾を作る必要がなくなったのに続けようとする姿勢をはっきり示すシーンがある。

最初の一節「プロメテウスは火を盗み、人間に与えた。ゼウスは怒り、永遠の責め苦を与えた。」
サンスクリット語「我は死なり、世界の破壊者なり」、これらを引用するシーンが秀逸すぎる。
彼の作品は、与えられた大量の点を自分で繋げていき、納得をする事が楽しすぎる。


作った原爆は抑止力であり、実際に落とすためのものではないという感情と、仕事上落とすことは否定していても落とす場所も選定しなければならないという論理的な思考が入り交じる。
時代によっても考え方は変わる。人を侮辱したツケを払う事もある。それゆえ結果が決まっている事の過程を作らされる事もある。客観的事実から思ったことの無い心情を推測され、押し付けられる事もある。

人間の単純さと複雑さが入り交じっていて3時間の間で一旦自分の人生を忘れ、新しく景色や感情を詰め込まれたような気持ちになった。

危惧した物理的な連鎖反応は結局起こらず、大気には引火せず、世界は破壊されなかった。ただ生み出した原子爆弾自体が相互確証破壊の考え方を生み出し、その均衡が壊れるという連鎖反応をオッペンハイマーが生み出した事で、いつか必ず壊れる世界を作ってしまった。
そしてオッペンハイマー自身が全てを許されたと感じるのは、原子爆弾を作ったことで陥れようとしてきた人が許されたと思う時なのだろう。
最後のシーンをなんとなく噛み砕けていなかったが、何回か観てようやく感じる事ができたような気がする。

造り手のノーランはもしかしたら政治的、社会的なこの作品の意義を鑑みずに作っているのかもしれない。鑑みていたとしてもこの作品が原子爆弾や現代に起こる戦争、ジェノサイドに人々の関心を寄せるきっかけにはなると思う。世界にひとつしかない原爆を投下された国の民として、大変価値ある映画だったと思った。

この映画の原爆を落として戦争が終結した事実を描写したシーンで、アメリカが「落としたのは間違いではなかった」と思っている理由も少し分かった。ただ間違いではなかったとしても、あの時落とさないという選択をとっていたらと思考する事は被爆国としてやめることはできない。
作品が終わったあとにこうして考える事がこの映画の意義でもあると感じた。

実在する人物、ストーリーだけあって一人一人の人間性が本当に細かく、また世間に与える影響も多大、そして映像体験としてのクオリティの高さ、全てが相まってアカデミー賞をあれだけ受賞したと、納得することができた。


1度目:109シネマズプレミアム新宿(35mmフィルム)
2度目:グランドサンシャイン池袋(通常4K)
3度目: グランドサンシャイン池袋(IMAXレーザーGT)
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