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オッペンハイマーのはとのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

世界を破滅する可能性を産み出し、死して尚その責に苛まれる事になったアメリカのプロメテウスの物語......。

「原爆の父」が主人公の歴史映画だというだけあって観賞前は身構えていたんですが、蓋を開けてみると、戦時中の空気感の中で、高揚感と共に未知の兵器を作り出してしまった科学者の心象風景がほとんどで、原子爆弾という世界を丸ごとひっくり返しちゃったマクロ的要素と個人の内省というミクロな視点が絡みつく複雑な物語だった気がします。
そういう、大小の視点が絡まり合い、尚且つキュビズム的な時系列の配置がよりテーマを難解にしていて、ビシバシと全身に浴びせられるノーラン節に脳が嬉しい悲鳴をあげた3時間でした。

この映画を劇場で観て本当に良かった理由として、音の緩急がオッペンハイマーの心情とリンクしていたから、というのがあります。
緊迫感のある音楽が急に静寂になったり、遅れてくる爆風と揺れる小屋の音だったり、狂喜する人々の喧騒とそれとは切り離されたように微かに鳴り続ける耳鳴りのような音だったり、それらを余す事なく感じ取れる事が前提とされていると思いました。ノーラン監督の"劇場での映画体験"に重きを置く情熱をひしひしと感じる......。

中でも印象に残っているのが"足音"。
重要なシーンで、けたたましく、或いは静かに鳴り響く足音がめちゃめちゃ怖かった......。
世界が破滅に向かう様を、目には見えない"何か"が確かに近づいてくる恐怖として描いているように思いました。

この物語における"Robert Oppenheimer"という人物の印象は「弱虫の天才」。
物凄く頭が良くて人を惹きつけるカリスマなんだけど、心は未熟で自らが引鉄となった罪の結果を直視する事もできずに俯いてしまう。自分達がしている事は敵を出し抜き祖国を救う為の正義の行いだと信じていたのに、その結果が、皮膚の焼け爛れた若い女性や丸焦げて炭になって死んだ人間を含む10〜50万の死傷者だったという事に呆然とする男。ぐろい。
そんな彼を取り巻くアメリカの政治世界における権力闘争もぐろい。なんかもう全部ぐろい。
そんな『オッペンハイマー』の続きの世界で私たちは現在も生きているという事実が一番ぐろい気がする。

人の命ってなんなんだろう。
命のランク付けが突きつけられるニュースが最近多くてメンタルがやられ気味なんですが、そういう世界で、それでも、子供達が等しく笑って遊んで勉強してお腹いっぱいになって眠れる世界になる事を祈るのは、夢物語なんでしょうか?(そうじゃないと信じたい!!!!!!!!!!!)
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